夢を見た。
暗い中で少し前を歩くその背中は、昔から良く知っている後ろ姿。幼馴染みで、強そうに見えても弱く優しい、唯一の女の子。名前を呼ぼうと思っても何故か声が出ない。それは夢だと頭では分かっているのに、遠ざかるその背中が怖い。追いかけても追い付かない、手を伸ばしても届かない。去り行く君を見るしか出来ない、それが何よりも怖くてもう一度手を伸ばす。


「……悠太?」


目が覚めた。やっぱり夢だったと思うと同時に制服のシャツが汗で濡れているのに気づく。
顔をあげると不安そうに顔を覗き込む棗がいた。良かった、と少しの安堵を覚えて小さくため息を吐いた。それも目の前に置かれたココアの湯気に混ざって消える。そうだった、祐希が勝手に置いていった漫画を取りに棗の家に来たんだったことを思い出した。いつの間に寝てしまったんだろう。しかも、あんな夢を見るなんて。


「うなされてるみたいだったから…起こそうかと思ったんだけど、」

「…うん」

「その、あまり悪夢の最中に起こすのは良くない…って聞いたから…」


ごめんね、と小さく呟く姿を見て思わずその手にそっと触れる。彼女の顔はなんだか苦しそうだった。夢を見ていたのはオレの方だったのに。大丈夫だよ、とその手を握る。あの時伸ばしても届かなかった手、それが今こうして掴めることがオレには嬉しかった。


「……結局、ちょっと声かけちゃったんだけど」


そう言って笑う棗はもう、いつもの棗だ。


「でも大丈夫。悪い夢のあと、目が覚めて最初に会った人が助けてくれるんだって、」


だから悠太に何かあっても私が助けてあげられるね、って。本人は何も考えず、無邪気そうに小さく笑うけど。棗はたまに本当に恥ずかしくなるようなことを言ってくれる。机に肘をつきながら、バレないように顔を隠す。そうとも知らずにココアを飲む彼女を見てきっとこれからも頭は上がらないだろうと思った。

最初に見たのは君だった






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