目の前に積まれた書類の山を見て溜め息、というか項垂れる。いや、悪いのは私なんだ、分かってる。テニス部の写真の保管、新聞の報告書、その他諸々を後回しにしてたという名の忘れた。だいたい試合報告ってなんだよ、私別にテニス部のマネージャーでもなんでもないんだよ。と思ったところで書類の山はなくならないし、委員長に怒られるだけだしで、もう。とりあえず一枚、二枚と取ってみてなんだサインするだけか、と安堵した束の間、三枚目の結果報告で手が止まる。スコアまで書かなきゃいけないなんて…!そんなの覚えているわけがない。もっと言うと覚えようとも思わない。しょうがない、後回しと四枚目を見る、結果報告。五枚目、結果報告…。結果報告ばっかじゃないかよ、もうテニス部試合するなよ……。


「棗さん」


頭の上から降ってくる声に少し顔を上げる。目の前に立っているのは制服着た誰か。それでも雰囲気、声、それで誰だかは分かる。


「日吉くん…ここは三年の教室だよ」

「分かってますよ。何してるんですか」


ふう、と小さく溜め息を吐いて書類を一枚ひらひらと見せる。事情を察した日吉くんがああ、という顔をした。そうだ、日吉くんに聞けばスコアも分かるじゃん、と思った矢先。


「ちゃんと書かないからですよ。頑張って下さい」


そう踵を返す日吉くんを慌てて引き止める。待って、ちょっと待って。手伝って。


「嫌ですよ。俺、今日オフなんですよ」

「それは分かってるよ。そこをなんとか」

「棗さんが溜めてたのがいけないじゃないですか」

「それも分かってるよ…」


やっぱりダメか…といいよと言ったもののなかなか側を離れない日吉くん。しばらくして前の椅子を引く音でまたハッと顔を上げる。呆れた顔で椅子に腰をおろす日吉くんと目が合った。


「…手伝ってくれるの?」

「……」

「ごめんね。…ありがとう」


何も言わず一枚、一枚とスコアを記入していく。全部ちゃんと覚えているなんてさすがだなぁ。私と違って黙々と作業している彼が小さくふと呟く。


「………終わらせないと一緒に帰れないですから」

「え」

「早く手動かして下さい」

「あ、うん。………帰り何かおごるね」

「当然です」


当然かぁ、と笑いが漏れるも気持ちはなんだかあったかい。周りから怖いとか、冷たいとか。色々な噂を耳にするけれどそんなんじゃないんだよ、といつも思う。少しだけ不器用で、でも優しい。それは私が知ってればいいかなと今日は思った。

ツンが8割なきみ





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