春は昔からふわふわしていて、多分私より女の子らしいといってはそうなんだけど、男らしい一面もあって。


「あ、いい匂いしてきましたね〜」

「うん。ちゃんと膨らんできてるし」


たまたま一緒に見ていたケーキ本の中から美味しそうだね、と話してたことから始まった週末。台所に立つその後ろ姿はそれでも女の子っぽい。たまに間違えられるし。ただこうして一緒にお菓子を作れるような子は私にとっても春しかいなくて、その笑顔に癒される。


「棗ちゃん、ケーキ、持って帰ります?」

「うーん、多分余っちゃうから食べていこうかな」


春はたまに一人でもお菓子を作ることがあって。その度にくれるんだけど、それがまた美味しい。私も料理はするけど、お菓子はあまり作らない。苺にバター、砂糖に…と色々と必要なものが多ければお金がかかる。あと、後片付けが大変。そんな理由を持つ私は、もうちょっと春のような邪な思いを持たないことが必要なんだろうと、まあ、いつも思う。でも春が作るお菓子は優しい味がして好きだから、わざわざ私が作らなくてもいいかな、とも思ってしまう。


「あ、すっげーいい匂い」

「ちょっと冬樹!つまみ食いしちゃダメでしょ」

「いいじゃん。ちょっとくらい」


いや苺は食べたらダメだよ。言うまでもなく一粒の苺は冬樹の口の中。あーあ、と目の前で繰り広げられる兄弟喧嘩も今となっては見慣れた光景。仲良いなぁと自然と笑顔が出ていたみたい。


「棗さん、食べてくの」

「うん」

「よっしゃ!」

「もうすぐ出来るからつまみ食い、待ってね」


はーい、とやけにいい返事をしながら戻っていく冬樹と、まだふくれ面の春を見てまた笑う。


「冬樹は昔から棗ちゃんのことは聞くんですよね…」


私は身内じゃないからね。言い合えるのは兄弟だからで、私は春と冬樹は仲良しだといつも思う。それを前に冬樹に言った時に凄く苦い顔をされたけど、それすらも面白かった。ふわふわしている春も、冬樹の前ではちゃんとお兄ちゃんで、なんか、こう、兄弟っていいなぁって。
スポンジが焼き上がった音が部屋に響いて、春とオーブンを開ける。あとは、デコレーションするだけ。完成間近を想像して、また笑みが溢れた。

甘い匂いにさそわれて






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