夏休みもそろそろ終わりに近付いた頃。日吉くんから部活の休みの日に出掛けよう、と誘いがあった。思えば向こうも部活ばかりで練習、試合、練習…の毎日。この暑い中よくやるなぁ、とさえ思ってた。こっちもこっちでそれを毎回写真撮るばかりで、この暑い中何やってるんだろう、と思ってた。確かに会う数で言ってしまえば、ほぼ毎日会っているからなんとも思わなかったけど、夏休みともあろうのに何もなかった。このまま終わるよりも何か思い出を、と二言返事で返したのはまだ鮮明に記憶にある。
「ちょうどこのイベント今週で終わりなんですよ」
当日。渡されたチラシを見て心の中でマジか、と呟いた。ホラーイベントだった。少しでも考えれば分かりそうなことを。まあ怖いのは不得意ではない私だけど、なんだろう。この子はこういうのにしか興味ないのかな、と少しばかりの不安が過る。隣でわくわくと擬態語が漏れている彼の前でそんなこと言えない。
「これ持って回るみたいですね、どうぞ」
「う、うん」
渡された懐中電灯。イベント、といっても内容は良くありそうなお化け屋敷らしい。中に入るとそりゃあもう真っ暗。懐中電灯を点けても見えづらい。真夏とは思えないようなひんやりとした温度と、やたらクオリティの高いセット。手が込んでいる。
「さすが評判がいいだけあるな、なかなか…」
めっちゃ楽しそうだ。楽しむところが違う気もするけど。日吉くんらしいなぁ。とちょっと引いた場所を歩いていた、のが間違いだった。
「、ひっ…!」
足!誰か足掴んでる!危ないなおい。と一人ジタバタしてるけど離してくれない上に、日吉くんは一人でさっさと歩いていく。懐中電灯の灯りが遠い。彼女置いてくとかどんだけだよ、と突っ込みを入れながらも呼ぶ声は出ない。おいおい、さすがに一人はちょっと怖いよ。
「ちょ、日吉くん、……この、邪魔だなっ」
なんとか振り切って追いかける。途中なんかゾンビみたいなのに絡まれながら振り切る。前が見えない先を走ることの方が恐怖に感じた。少しの間がだいぶ前に思えた。時間も距離もそんな経ってもいないし、遠くもないのに凄く長く感じた。そんな多少の怒りも込めて、見えてきた背中に抱き着くなんて可愛いもんじゃない。タックルだ。
「…っ!ちょ、棗さん?」
「お、置いてくなんて酷いじゃん……」
「え、」
あ、私が着いてきてないことにも気付いてなかったな、この顔は。何一人で楽しんでんのさ。ポカッと一発パンチを入れるとようやく向こうも事の次第を理解したみたいで、申し訳なさそうに謝った。
「ちゃんと見てますから、」
「何を」
「棗さんが着いてきてるか」
「いや…そんな子ども扱いいいよ…」
その後はちらちらとこっちを見てくれるようにはなったけど、さすがに私も同じ過ちはしない。こういう時の日吉くんは周りが見えなくなるんだから私が気を付ければ良かったんだ、と半分諦めが入るもとりあえず抜けることが出来た。
「あれだね、楽しそうだったね、日吉くん…」
「はい」
即答。でしょうねぇ、楽しそうだったもんねぇ。私もなんだかんだでつまらなくはなかったけど、まあ、あれだ。今度こういうことがあったら、心して行かなければならないことを学んだ気がする。
「イベント自体も楽しかったですが、」
「うん」
「普段見れない棗さんが見れたのが良かったです」
「…………」
その時の意地悪そうな笑った顔は忘れない。軽い怒りやら恥ずかしさやらを誤魔化すようにもう一発入れたパンチも、日吉くんを喜ばせる要素でしかなかったみたいだ。
涼しさ感じる、夏
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