水族館に行かない?と誘われて来たのはちょっと前。ついさっきまで一緒にいたと思っていたのに、今はいない。はぐれた、かな。福引きで当たったとか二人は運いいんだ、と思ってたけど、どうやら私はツいてないみたいだ。休日ということもあって周りは家族連れでごった返している。これは自力じゃちょっと見付けられそうにない。
そうだ、携帯。と鞄の中を探すも、ない。頭の中を思い返してみても、そういえば充電器に差しっぱなしだったことを思い出して小さく溜め息をつく。やっぱり、ツいてない。
あまり動いても仕方ないか、と近くのソファーに腰掛ける。目の前には海月の水槽。これをずっと見てたから、はぐれたことにも気付かなかったんだろうな。と、さっきまで散々見てた海月に目を移すもそこから離れない。不規則な揺れ方、透明感のある、その姿。
「棗!」
呼ばれた声に吃驚したけど、それは悠太だとすぐに気付く。その顔を見て安心したと同時に、ああ心配させちゃったんだなと気付いて申し訳なくなった。
「どこにいるのかと……携帯も通じないし」
「ごめん、携帯忘れてきちゃったみたいで…。ごめんね」
見つかったから良かったけどね、と小さく笑ってすぐどこかに電話した。祐希だ。そっか、二人とも探してくれてたのか。
「祐希、向こうだって。行こうか」
そう言って私の手を取る。しっかりと握られた右手にえ、っと思っていると、またはぐれたらいけないからね、と。うん、確かにそうなんだけど。
「あ、棗」
「祐希、ごめんね」
「………なんで手なんか繋いでんの」
「またはぐれないように、ね」
ね、と言われても。なんだか恥ずかしさが込み上げてくる。ふーん、と呟いた祐希は何を思ったのか私の左側に移動して空いている手を取る。え、ちょっと待って。
「じゃあ、オレも」
「ちょっと、両手はないよ」
「えー、なんで?」
「いいじゃん、囚われた宇宙人みたいで」
「いや、いやだよ…」
そうして二人で軽く手を上げる。本当にそんな感じだよ。しかも恥ずかしさ半端ない、と無理やり下ろす。手は離してはくれない。確かに私がぼーっとしててはぐれたし、気付かなかったのがいけないのは分かっているんだけど。心配してくれるのも本当に嬉しいんだけど。恥ずかしい。この恥ずかしさを隠そうにも両手が塞がれているから隠しようもない。
「昔は良くこうやって歩いてたよね」
「そうそう」
「昔は、うん、そうなんだけど、」
なんで二人がそんな平然と出来るのか分からない。懐かしいなんて気持ちを今は感じられる余裕はない。あの頃より幾分背が高くなった身長差と、繋がれた手の大きさを感じながら、私はまだこの恥ずかしさを拭えそうにない。
それでもあの頃と変わらない
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