何回かは訪れてはいるけど、慣れないオートロックの扉を開けてもらう。近くいた向日くんと宍戸くんと軽く話してさらに奥へ。何に緊張するわけでもないけど、だんだん自分でもどこに向かっているのか分からなくなる。ああ、私も早く帰りたい。壁を挟んで聞こえる向日くんたちの笑い声が遠い。


「失礼します……」

「ああ、きたか」


どこか別世界のような部屋で悠々とソファーに座る彼がそこにいた。跡部景吾だ。


「これ、この間の試合の写真、」


何故か、でもないけど新聞を発行する前に写真を見てもらうのが約束になっている。他部活は結構適当に選んでくれればいいよ、と言われることが多いけど、テニス部は違う。徹底度が違う。特に跡部くんは撮った写真を全部見て吟味する。どんだけ自分が好きなんだ、といつも思う。


「………お前は写真だけはいつも悪くないな」


一通り目を通して一言。悪くない、ってなんだ。いいのか、一応は誉めてくれてる……わけないか。視線を外した彼はいつものポーカーフェイスで全く読めない。わけだけれど、その中から何枚か抜いて渡された。


「これだな、」

「…いや、多いよ。二枚で」

「少ねえな」


言ってはなんだけどいくらテニス部とはいえ、たかが練習試合でそうそう大きな記事は作れない。今回みたいな場合は大方結果だけを文で書いて、写真は少なくするしかない。たとえたくさん撮っていたとしても。さらにその内の一枚は跡部くんになるのは必然だから(というか暗黙の了解だ)、レギュラーは一人しか貼れないなぁ。


「仕方ねえ、これで作れ」


と差し出された二枚は鳳くんと準レギュラーの子だ。しかしこれでは跡部くんの写真がない。


「いや、二枚だから一枚は跡部くんじゃないと、」

「別にいいだろ」

「いやいやいやいや、無理だよ殺される」


殺されるってなんだよ、と喉を鳴らして笑う。笑い事じゃない。私にとっては女子生徒からのなにやらで死活問題なんだよ。だいたいいつも目立ちたがりの君がなんでここで遠慮するんだよ選べよ。
しょうがねえ、とさらに渡されたのは跡部くんだけが写った三枚。ん?何を今まで話してたんだっけ。二枚なんだよ、新聞に使えるのは。そんなことを考えてて次の言葉が出ない私に降ってきた言葉。


「俺様用でもう一部作ればいいだろ」


はあ?と開いた口がそのままに。もう一部?新しく、跡部景吾用に?何を言っているの。とか思ったけど、本気だ。この人本気で言っている。


「この前の練習試合は他の奴らがメインだったからこれでいい。だが、お前がそこまで言うなら俺様の写真、使わせてやるよ」


意外にも他の部員を優先させるような考えも出来る人だ、と一瞬でも見習ってしまった自分を落とさせたい。足を組んで、肘をついている跡部景吾は座っているにもかかわらず、見下されている感が半端ない。こうなったら何を言っても無駄だということを私は学んでしまった。


「はぁ…………分かりましたよ…」


跡部景吾はこの氷帝学園の王様であり、テニス部200人のトップに立つ。私なんかが口答え出来る相手などではなかった。さらに、部員思いで努力家。そんな美化話を一体誰が、と言いたいところだが日が暮れても練習する姿を見たことがある事実を知っているとあながち間違ってもいない。そんな完璧超人の彼を目の前にして、ただただひれ伏すしかない自分に溜め息しか出なかった。

The
Ultimate
Hard
Worker






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