その人はいつも中庭で本を読んでいた。
入学してきてまだ間もない頃、広すぎる学園内では比較的人目につかない場所を見つけた。お昼には弁当を食べる学生で賑わうが、放課後にはあまり人気はない。上級生であることは明らかだったが、こんなにも落ち着いた雰囲気を持つ人に初めて出会った。桜の舞うベンチで姿勢良く本を読む姿に、思わず少しだけ目を奪われる。

気になる、というわけではない。
ただ毎日というほど同じ場所、同じ時間にいることが多かった。予鈴が鳴っても気付かないから友達と見られる人が呼んでくる、という流れまで同じだった。入学してからまだ数日。その後は春の嵐か、雨の日が続きその人を見ることもなくなった。
もう一度だが、気になる、というわけではない。

桜舞う中庭で



氷帝学園のテニス部、それだけでブランドがつくほどの知名度を誇るのは一重にある人物がいるからだ。
ほぼ一日通しての校内案内では本当に中学校なのか、と疑いたくなるような設備がここには備わっている。それも、二年生にして既にテニス部部長、生徒会長をも努める跡部さんのお陰だということは何度も聞いた話だ。今も廊下の壁にはテニス部の試合を取材した新聞が所狭しに張られている。そのどれもが跡部さんの大きい写真を一面に張り、どれも同じに見えるのがつまらなくも思えた。
ただ一つ、目立たない一番端に張ってある一枚に目が止まる。写真の良し悪しは知らないが、どこか他とは違う感じがした。躍動感というか、アングルというか、良くは分からないが、素直に「ああ、この写真好きだな」と思った。
 
 
「いい写真だね!……でもなんでこんな端っこなんだろう」
 
「……跡部さんの写真がないからだろう」
 
「あっほんとだ」
 
 
そう、この記事には跡部さんの写真はなかった。大きく写っていたのは別の人で、この数ある中で跡部さんがいないのはおそらくこれだけだろう。隣にいた鳳は既に興味を無くしたのか先生の説明を聞いていたが、この記事だけは読んでみたいなにかがあるような、気がした。
 
 
「日吉ー!もう行っちゃうよ!」
 
 
下に小さく書かれた"写真:○○棗"を横目で見たが、会ってみたい、という気はない。

写真の行方



初めての委員会の集まり。報道委員になった俺の隣の席は未だ空席のままだ。二人組で活動するとのことで、くじ引きをするがどうやら二年の人が一人まだ来ていないらしい。とりあえずいる人で周りはほぼペアが出来ている。あとは後回しにしていた二年生が、引き始めた時だった。


「あっ来た!ちょっと棗なにしてたの!」


ちょうど、ではないがガラッと戸を開けて入ってきたのはあの中庭の人だった。……この人も報道委員なのか。そういえば、最近は晴れでも姿を見なくなった。読み終わったからだろうか。
くじを引いたその人は、番号と席を確認する。と、同時に空欄だった俺の隣に○○と書かれた。それを見て、割りとすぐに、あの写真を撮った人か、というのが出てきたことに驚いた。


「こんにちは」


中庭のその人は、
あの写真を撮ったその人は、

透き通るような声の人だった。

春、出会いの季節








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