帰り道、隣で歩く貴方はぼーっとしていて、会話にも上の空でうんとしか返事をしない。
あの時、何故手を取ってしまったのか自分でも理解が出来ない。触れた手の、館内の冷房で冷えた温度が伝わってきた。驚いたような顔のその瞳に、薄暗い中でも自分が映っている。その顔を正面からこんなに間近で見たことが今まであっただろうか。一昨日までその右頬に痛々しく貼られていた湿布は今はないが、心なしかうっすらと赤く見える。無意識に触れた瞬間、ぴくっと反応し目を見開いたその表情も初めて見る顔ばかりだった。


「…ちょっと、危ないですよ、」


前は赤信号だ。普段から少し抜けているとはいえ、いくらなんでも抜けすぎだ。
隣で通り抜けようとしたその腕をとっさに掴んで引き止めた、が、凄い勢いで振り払われた。


「…あ、いやっ、ごめん。ありがとう」


この人は分かりやすく表情に出やすい。今もこうして目が泳いでる姿に、さすがの俺も分かる。


「もう、帰りましょう。………送ります」

「いや!」


この短時間の会話で「いや」というのを二回も言うとは、逆にこの人の神経を疑うな、と思いつつも俺も表情に出てたらしく、慌てたように否定する。


「あ、違くて、嫌じゃなくて。ほら、まだ明るいから。大丈夫、あの送ってもらわなくて、」


焦っているからか、少し顔が赤い。
わざとらしく付け加えた「楽しかったよ、ありがとう」という言葉も半分に聞いておく。

嫌われて、しまったのだと思った。明らかな拒否反応というのは分かる。あの人はそれを隠すほど器用なことは出来ない。全てが素なのにそれが読めないところが、おそらく魅力であり、惹かれたのだろう。だからこそ、分かりやすいが、分からない。
多分これで良かったのだと言い聞かせるが、この身体の内でつっかかる何かはなんだろう。考えながらも、家に帰った後に珍しく送られてきたあの人のメールには返信出来ないままだった。






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