祐希と千鶴の寸劇放送が全校生徒に流されたその日の夕方。お粥を作りに来て欲しいと連絡があって、来てはみたものの東先生の家でなんて聞いてない。引き返そうにもあきらさんに玄関先で半ば強引に引き入れられて、凄く流されてしまってる感じ。いい、のかな。先生の家に、私一応女子生徒に当たるわけなんだけど。
「なっちゃん、早く早く!!」
「ちょっと待って……お粥ってなに」
「こーちゃんの風邪の看病だよ!」
目線の先には確かにどこかぐったりした様子の東先生。台所から漂う異様な匂い。お粥……失敗したんだ。というか、何を入れたらあんな真っ黒なお粥が作れるんだろう。
「…東先生、具合悪いんですか」
「ははは、…ちょっとね」
…来ちゃったことだし、もうしょうがないか。台所借ります、と一言入れて台所に立つ。誰かの為に作る料理なんて、久しぶりだなぁ。
「さすが棗、手際が千鶴と大違い」
「なにおう!オレだってなかなか…」
火使ってるからお静かに願います。水分を含んだお米がぐつぐついってきたら完成間近。溶いた卵を入れて、味を整えて…大丈夫かな。味見をしてもらった祐希にも美味しいと言ってもらえたから、東先生の所に持っていく。
「うわー!おいしそー!」
「…なんか、ごめんね。○○さん…」
「いえ、」
「ねー、こーちゃん一口ちょうだいっ」
「あ、おいチョコバナナ!!」
具合の悪さは風邪だけじゃないだろうなぁ。東先生も大変だ。お粥もなかなか好評みたいだから、私がここに来た役目は無事に果たせたということだろう。
「じゃあ、私はこれで」
「えー棗ちゃんもう帰っちゃうのー?」
これからバイトなので。一応洗い物は一通りやったけど…最後の片付けは祐希と千鶴に任せておいて…大丈夫かな。いっか。
「あ、○○さん!ありがとう」
「東先生もお大事になさって下さい」
いろいろと。本当に。
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