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「腹、減った…」

その言葉を肯定するかのように、低い唸り声がオレの腹の方から聞こえた。


→作ってあげようか?




エリオット=ナイトレイ(16)、空腹という名の悪と絶賛交戦中。戦況は悪い。

「あれ、エリオット昼食べなかったっけ?」
「いや、食べたけど」

腹の虫がまた鳴りそうになるのを押さえつけるようにソファの上でうつ伏せになる。拍子に胸の上に置いてあった本がドサッと床の上で音を立てたが、拾う気力も起きない。
読みかけの本から顔を上げたリーオは首を少し傾けて

「何か頼もうか?それともお茶でもいれる?」

といった。

「茶、頼む」
「わかった」

腹は確かに相当減っているのだが、あと3時間も待てば夕食だ。今から頼んだところで料理が出て来るのは30分後、間食をとるには微妙な時間帯だった。

立ち上がったリーオが簡易キッチンに消えるのを目線だけで見送ってから、ソファの横に転がった読みかけの本を拾い上げる。本に集中すれば空腹も誤魔化せるかも知れないと、ソファに座る体勢に変え本の世界にのめり込むことにした。



「エリオット、お茶持ってきたよー」

思いのほか本に集中する作戦はうまくいったようで、いつの間にか戻っていたらしいリーオの声に本の世界から引き戻される。礼を言おうとして、茶の横に置かれたものに気がついた。

「…なんだこれ」
「何って、パンケーキだけど」

テーブルに茶と一緒に並べられたそれは、ホイップされた生クリームとジャム(色とかからして多分イチゴだ)に彩られている。生クリームが僅かに溶けているところをみるに出来立てなのだろう。

「いつ、頼んだんだ?」

オレが本に集中している間に頼んできてくれたのだろうか?それにしては早過ぎる気が…

「僕が作ったんだよ」
「…は?」

フォークを掴もうと伸ばした手が止まる。なんだと。

「お前…料理なんて作れたのか?」
「作れたみたいだね」

隣に体育座りをしたリーオは、両手に顎を乗せ何食わぬ様子でそう言った。初耳なんだが。

「この間ミセス・フィンに教えて貰ってね、せっかくだから作ってみたんだけど、いらなかったかな?」

リーオの言葉がとぎれたと同時に、忘れていた筈の腹の虫がぐぅうう〜っと情けない声をあげた。

ぷっと吹き出した従者が「大貴族も形無しだね」と笑いだしたのにうるせぇと返してパンケーキを頬張った。思った以上に柔らかな生地に生クリームのなめらかさが加わった舌触りは良く、またイチゴジャムの甘酸っぱい味と僅かに香るブランデーが口いっぱいに広がり…
つまるところ、それはかなり美味かった。

「どう?」
「こんなに美味いとは思わなかった」

アッサムを飲みながら感想を零す。正直、今まで食べた中で一番美味かったかもというのは、なにか悔しい気がして口には出さないことにした。

「そう、良かったよ」

空になった皿を片付けたリーオがどこか楽しそうにこちらをみた。

「良ければまた作ってあげようか?」
「…おぅ」

仮にも公爵家の人間がさっきみたいにお腹鳴らしてちゃ格好つかないしと、いつも通りの含み笑いで嫌みを足してきやがった奴と、これまたいつも通りの口論になり。
礼を言いそびれたから、今度はオレがなにか作ってやろうと一人心の中で呟いた。


窓から差し込む日の光よりも温かい、そんな午後。











■―――――――――――
矛盾はデフォ。ほのぼのとした二人希望です。口論っていうかおそらくエリーが一方的にまくし立ててるだけと思われる。そしてホットケーキは単に私が食べたかっただけだっていう…美味しいよねホットケーキ。


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