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眠りの淵で声が聞こえた


→悪夢の前に




眠りにつく前は、少しだけ不安になる。それというのも得体の知れない夢をみるから。

実際夢ごときに怯えるだなんて我ながら少々…というかかなり情けない話だとは思うのだが、どうにも耐え難いものがあるのだ。
焼け焦げた部屋の匂い、転がる死体、赤に染まる黒い剣とそして…

胸くそ悪いほどのリアリティをもって迫るその夢を、毎夜とはいかなくとも繰り返しみるのだから辟易するのも無理のないことと思いたい。思い出すだけで胸がぞわりと不快感で満たされた。

「はい、ホットミルク」
「…悪いな、リーオ」

差し出されたカップを受け取ればいつものへらへらしたものでなく、柔らかい笑顔を向けられた。
八分目まで入れられたその液体は、リーオが寝つきのよくないオレにと気を利かせて入れてくれたもので、効果はともかくその心遣いが素直に嬉しい。カップの温もりに肩の力が抜ける。
差し出した本人はといえばどういたしましてと軽く応えてオレのベッドサイドに背を預けて床に座り込んだ。

「お前は寝ないのかよ」
「ちょっとね、本を読みたい気分だからこれを読んだら寝るよ」
「いつもそれだな…まぁいいけどよ」

リーオは滅多にオレより先に寝ない。本を読むからと奴は言うが実際のところはわからない。まぁ朝になればきちんと一冊読み終わっているから本当に読んでいるのだろうが、それもどうなのだ。
カップの中身を口に含めばミルクとわずかに蜂蜜の香りが優しく広がる。
しばらくしてカップは空になった。


「………」
「なぁ、」
「なに?」
「………あー、その…いや、なんでもない」

カップを置いて返事も待たずに横になる。
何か小言を言われた気がしたがそのまま眠ってしまうことにした。

"ありがとう"

そのたった一言を改めて言うことが気恥ずかしくなったなどと、奴に悟られないうちに。











***

夢と現、微睡むその狭間で声が聞こえる。意識が途切れるその一瞬。
それは悪夢の予兆なのだと気づけぬまま。


―…ごめん、エリオット…―


そんな言葉必要ないのに。
お前は笑っていればいいのに。



本当に馬鹿なやつ













■――――――――――――
気の利くリーオと素直になれないエリオット、そしてお互いを気遣うエリリオが大好きです。
ええ好きなんです。
ちなみに寝つきが良くないときのホットミルクは実際に有効らしいので寝つきのよくない方は是非!


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