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 道を覆う土砂がまだ侵食していない場所に、施設が現役だったころの石畳が現れていた。
 かなりしっかりした舗装だったのかひび割れはほとんどなく、雑草も少ない。
 そこを歩いている時だけほんの少し休まっていたツナの足は、しかし午後一時半ともなると、さすがにそろそろ限界を迎え始めていた。
「ちょっと……! あの、けっこう歩いたしちょっと、や……休まない?」
 いつ刺客が襲ってくるか、無事にみんなで帰れるのかという恐怖と緊張で先程から足の震えが止まらない。
 ネロのことだって気がかりだ。
 薬でどうにかなっているだの、かと思えば連れ回されているだの。
 城島犬からもっと聞き出せば良かったと思うが今更だ。あのときは突然の襲撃への驚きの方が強くて、頭がまともに動いていなかった。
 他のメンバーは少なくともツナよりは冷静なようだったが、元々マフィアごっこをしているつもりの山本はさして状況を真剣に考えていないようだし、状況はわかっているはずの獄寺も何でも屋『黒猫』が簡単にどうこうなるわけがないとか思っていそうだ。
 完全に冷静なままだったリボーンやビアンキも、リボーンは予想外に淡白な態度を崩さず、ビアンキもそんなリボーンの様子を見てか自ら踏み込もうとはしていなかった。
 他のメンバーが平然としていることは純粋にすごいと思う。ちょっと前に化け物じみた能力を持つ敵と一戦を交えて怪我を負った山本でさえ、軽いフットワークで急な坂を上っている。
 彼らの足を止めてしまうのはかなり抵抗があったが、山本と獄寺はすぐにツナの声に反応して朗らかに返事をしてくれた。
「そーだな、オレ腹へってきたぜ。」
「ついでに飯にしましょうよ十代目。」
「う……うん。」
 ほっと安堵の笑みをこぼしてツナは頷いた。
 言われてみればいい時間だし、腹も空いているような気がする。
 それはビアンキやリボーンも同じだったようで珍しく二人とも素直にツナの提案に乗った。
「あそこなんてどースか?」
 獄寺が顎をしゃくった先にはまさしくこういう時のために作られたような休憩スペース。
 これ幸いとツナたちはぞろぞろ揃って石のスツールへ腰かけた。
「んじゃ寿司と茶を配るぜ。」
「どきなさいよ山本武。はいツナ、緑黄色野虫のコールドスープ。」
「虫ですかー!!」
「冷たくて寿司なんかよりおいしいわよ。」
「いや、あの(山本とはりあってるー!!)」
 どういう原理なのか蛍光色に輝く黄緑色の液体の中には、生きてるのかと思うくらい新鮮ぴちぴちの虫たちが。
 そしてやはり原理は不明だがその水面はブショアァァとなにやらものすごい音を立てて揮発している。
 ていうか寿司とコールドスープなら無理に張り合わなくても両方食べれば……いや落ち着け食べる方で考えちゃだめだ死ぬ。
 ツナは唐突な死の危機に混乱していた。
 と、そのとき。
「!?」
 ボコッと音を立ててコップの中身が大きく泡立ち、見る間に沸騰し始める。
「あつっ」
「わあっ」
 思わずビアンキがコップから手を離した直後、コールドスープと銘打たれていた液体は吹き零れ、あまりの熱さにプラスチックのコップまでもがグニャリと歪む。
 そしてそれは落下し机の上へと到達するまでに、爆発した。
 飛び散った飛沫がびしびしとツナの肌に降りかかる。
「あぢぢぢぢ何なの!? このポイズンクッキング!」
「私じゃないわ!」
「ん? 弁当が……!?」
 スープに次いで今度は弁当が、容器ごとグツグツと沸騰し始める。
 獄寺と山本も慌てて腰かけていたスツールから立ち上がった。
「!! やべ!」
「伏せろ!」
 全員が机の陰に隠れた直後、またも爆発。
 言わずもがなせっかくの寿司は黒焦げの木端微塵になった。
「なんなのこれー!!?」
「敵の攻撃を受けてるわ!」
「どこから……。」
 爆弾が飛んできたわけでもなければ、あらかじめ細工がしてあったわけでもないのに。
 警戒し周囲を見渡す彼らの中で、獄寺はふと耳に違和感を覚える。
「ん……この音……。」
 風の音にも電子音にも聞こえるが、そのどちらでもない音。
 それが鼓膜のフチを擽っているような不快感。
「そこか!」
 迷わず音の出どころへダイナマイトを投げつける。
 たちまち事務室か何かに使われていたのだろう地味な建物に大穴が開いた。
 吹き荒れる土煙の中、ぼんやりと人影が浮かび上がる。
「ダッサイ武器。」
 そこにいたのは獄寺とそう歳の変わらなそうな、少女と言っていい人物だった。愛らしく切りそろえられた髪の前をピンでとめ、黒曜の女子制服を着ている。手元にクラリネットが見えるもののこの状況で彼女がただの吹奏楽部という可能性はゼロに等しい。
 好戦的な笑みを浮かべて、彼女は獄寺を馬鹿にしたように鼻で笑った。
「こんな連中に柿ピーや犬は何を手こずったのかしら。」
 何の躊躇いもなく自らが彼らに続く刺客であると確定させる一言を放つ。
 ツナたちも驚愕しながら身構えた。
「あれ黒曜の制服だ!!」
「ってことは。」
「しかし敵は三人組だったはず。」
 戸惑うツナたちに、M.Mはうざったそうに髪についた埃を払い落とした。
「私だって骸ちゃんの命令じゃなきゃこんな格好しないわよ。しっかしあんた達マフィアのくせにみすぼらしいかっこしてんのねー。」
「え」
「な!」
「あーさえない男見てると悲しくなってくる。男は金よ。やっぱりつきあうなら骸ちゃんがいいわ。」
 M.Mが心底見下した態度で口にしたのは、やはり骸の名前。
 ことのからくりが分からず戸惑いを隠せないツナたちをよそに、M.Mはこっそりとあたりへ視線を巡らせる。

 
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