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「山本気をつけてー!! カゲに何か獣いる!!」
 ツナはめいっぱい声を張って山本に危険を知らせる。
 助けに行きたくとも距離が有り過ぎてこちらからはどうにもできない。
 暗い中ポツリと浮かぶように見える山本はさすがにもう呑気に笑ってはいなかった。
 この閉鎖的な空間を満たして漂う、濁った淀み。
 視界は決して広くない。
 呻り声を上げなくなった獣はうっかりすると闇にとけてしまいそうだ。
 耳に痛い静寂を破り、やがて獣は口を開く。
「カンゲーすんよ、山本武。」
「!?」
「柿ピー寝たままでさー、命令ねーしやることねーし超ヒマだったの。そこへわざわざオレのエモノがいらっしゃったんだもんな、」
 まるで人間のように……いや、まさしく人間に相違無い仕草で、獣のように見えた影はゆっくりと体を起こして二本足で立ち上がる。
 少しだけ立つ場所が移動したせいか上から注ぐ光にようやく照らされた、その姿。
「超ハッピー。」
 長い舌をだらしなく垂らす笑んだ口元。横一文字に傷跡の走る顔は荒み、荒々しいたてがみのような金髪は前をヘアピンで止めてある。ガラスの破片が散らばる中だというのに裸足のまま、ガラの悪そうなだらけたポーズ。
 そして特徴的な、ダークグリーンの詰襟。
「お?」
「あれ? 人だよ……人間だよ!!」
「黒曜の制服!!」
 獣にしか見えなかったそれの思わぬ正体にツナ達から驚きの声が上がる。
 犬は名乗りもせずにへらへらと声のした方へうすら笑いを向けた。
「上の人達はお友達〜? 首を洗って待っててねーん。順番に殺ったげるから。」
「ひいっ(この人もヤバイ感じプンプンしてる――!!)」
 こちらを見上げてくるそいつに、ツナの背筋が震える。
 獄寺を襲った血まみれ男と同じ。
 あれも、フツーじゃない。
 しかし山本の感性はもっとフツーじゃなかった。
「ハハハハ」
「?」
「おまえ見かけによらず器用なんだな。さっきの死んだ犬の人形、すげーリアルだったぜ!」
 何処ぞのポスターにでもなれそうな爽やかさで山本はウインクをドカンと一発くらわすと、親指を立ててグッジョブの意を示してみせた。
 それに真正面から襲われた犬はポカンとしている。
「(山本まだ遊びだと思ってる――!)」
 数秒訪れる沈黙。
 山本は真顔に戻った。
 犬もしばらく困った顔をしていたが、気を取り直したのか、ぺろりと唇を舐めて元の顔を取り戻す。
「…………もしかして天然……? まっ、いいけど……。」
 タイル張りだったらしい床がザリ、と鳴る。
 犬は片足を後ろに下げ、上体をわずかに屈めて腰を落とす。
 スターティングスタートの姿勢。
 子供が駆けっこするような楽しそうな口元。
「よーい……」

 
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