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 その後、どういうわけか了平までが登場。パオパオ師匠とやらに呼ばれてきたらしい。彼はツナのさっきまでの元気のない様子など知りもしないようで、まるっきりいつも通りの調子で宣言した。
「スポーツが最後にたどりつくのはいつだって、熱血指導だ――!!」
 了平は雄叫びと共に言い切った。
 熱い。ものすごく熱い。体育教師エノモトより熱い。
 彼の前で後ろ向きになんかなっていたら多分ツナの背中は真っ黒焦げになるだろう。ジメっとした空気ごと丸焼きにされてしまう。
 かといってツナが元気になるかというとそれは別の問題。熱血指導なんてツナにとっては一番受けたくない指導である。
「さあ!! 血を吐くまで泳げ!!」
「ざけんなっ、てめーの好きにはさせねーぞ!!」
 練習というには恐ろしい事を言い出す了平。当然、これにつっかかるは獄寺だ。案の定言い争いが始まった。正直言ってどっちもどっちだが……。
 ツナは思う。本当に何故自分の周りにはこんな奴しかいないのかと。
 類友、と誰かに囁かれた気がした。ぶんぶんと振り払う。
 それはともかく、そろそろ監視のお兄さんの目の冷たさが尋常じゃなくなってきたので、仕方なくツナは止めようと足を踏み出す。自分がついさっきまで慰められる立場だったように思うのは気のせいだ。
 しかし。
「あ!! 足つった!! いでででででで!!」
 おそらく練習で疲労したうえに、ずっとプールに浸かっていたせいで身体が冷えてしまったからだろう。
 いくら浅いと言えどこの状態ですっ転びでもしたら危険かもしれない。
「十代目!!」
「あ!」
 慌てて獄寺や山本が助けに入ろうとする。
 けれど、それより先に動いた者がいた。
 普段ならそんなことしないだろうに、今日に限って“誰かのために”動いたのは、らしくもなく周りに触発されてしまったからか。
「ツナ!」
 一瞬の迷いも無く飛び込んだネロに、山本やツナは驚きの声を上げる。
 驚くのも無理はない。
 なにせ、今のネロは水への恐怖など微塵も無く、ただひたすらツナに向かって一直線に進んでいるのだから。
 その頼もしい姿からは先ほどまでの怯えた様子は想像もできない。
「ツナ! 大丈夫か!?」
「え、う、うん! ……ていうか愁! 水浸かれるようになったの!?」
「……あ゙」
 サーッとネロの顔から血の気が引いていく。
「ごめんツナ……やっぱ無理……。」
「んなー!?」
 どうやらツナを助けること以外頭になかっただけのようだ。
 『水』という単語を聞いて自分の今の状況を思い出したのか、一気にしおれてしまったネロ。頑張っても無理なものは無理だった。
 それを見て新たな助っ人があらわれる。
「オレが助ける!! まかせとけっ」
「り、了平さん……。」
「とうりゃ!!!」
 了平は勇ましく名乗り出ると勢いよく飛び込んだ。
 ……が。
「な!」
「なんつー無様な!」
 その飛び込みのフォームはまるで初めて泳ぐカエルのようである。しかもその姿勢のまま水面と水平の状態で飛び込んだため、波打つプールの水に思い切り腹を打ち付けた。
 ぱぁん、といかにも痛そうな音が響き、思わず山本とハルが青ざめて声を上げる。
 しかも、その泳ぎ……というより恐らく本人は泳いでいるつもりであろう動きは、あまり使わない擬態語がつきそうな奇妙さである。もにゃにゃにゃ〜っというか。並中の闘魚ランブルフィッシュというのはいったい誰に呼ばれているのだろうか。
「(何だ……この奇妙な動き……。)」
 一瞬足の痛みも忘れたツナの元へ到達した了平は、極めて爽やかに水面から顔を上げる。
「いやー泳いだ泳いだ!!」
「やっぱ泳いでたのー!!?」
 世の中には不思議な現象も存在するものだ。ツナは新たな世界の不思議を知った。
 泳ぐのが楽しすぎて救助を忘れていたらしい了平は、ツナに言われてようやく本来の目的を思い出し、安心させるかのようにとてもいい笑顔で声をかけた。
「泳いで引っぱってってやろうか?」
「いや、歩いてでいいです……。」
 上には上が、下には下がいるものだな、とツナはしみじみ思ったのだった。そして同時に珍しく根拠のはっきりしている自信も湧いてくる。
 確かに自分は泳げない。
 しかし、あれよりは、マシだ。
 しかも当のあれは、自信に充ち溢れているのだ。
 自分はもっと楽観的になれるはずだ。
 完全に石(バイブレーション機能付き)になっているネロをプールサイドに引っ張り上げながら呟く。
「何か……自信わいてきちゃった……。でもこんな自信でいいのかな……?」
「いいんじゃねーか?」
「!」
「そーだぜツナ。おまえもうほとんど泳げてんだからさ。」
「そっすよ! 十代目が泳げないっつーならみんな泳げてないっスよ。」
「つーか水に浸かれるだけいいじゃん。」
「安心して自信持ってくださいツナさん。」
「み……みんな……。」
 普段は滅茶苦茶な奴らだが、こういうときは決まって優しい。みんなの笑顔が目に沁みる。
 しかし、じーんときたのもつかの間で。
「つーことですすっとやってみっか。なっ」
「甘い! あと百本だ!!」
「新しいオレの理論を試していただきます。」
「お魚ちゃんでちゅよー。」
「(全部いっぺんにきたーっ!!)」
「ハハハ、がんばれーツナ(笑)」
「おまえ絶対おもしろがってるだろ!?」

 
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