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「ったく……お前はホントにありえねえよな。昔からムチャばっかりするし……」
「もう慣れただろ?」
「不本意ながらな。でも恭弥さんまで巻き込むな。変なもんに目覚めたら困るだろ。」
「それに関しては、オレは何もしてねーぞ。」
「ハイハイそうかよ。」
 ネロは「けっ」とか言いそうな態度で吐き捨てた。これは相当ご立腹だ。
 彼は自身への好意に疎い。それだけでなく、興味もない。
 今まではずっとそうだった。
「襲われんのが嫌なら、逃げりゃいーだろ。今の雲雀じゃおまえにはまだ敵わねえ。特におまえ、逃げ足だけは早えーからな。」
 リボーンがさらに煽ると、ネロはムッとしたようにそちらを睨む。
 鋭い金色の相貌。裏社会の警戒色。
 そいつはリボーンを睨んだあと、すぐに逸らされた。
 床を見つめて彼は言う。
「……恭弥さんはそっちの意味で俺を好いてくれてるんじゃないと思う。」
「そーか?」
「ああ。今日は何か、確かめたかったんじゃねえの。多分あの人は、」
 俺と同じだ。
 そう言った彼はリボーンがニヤリと笑うのを察知したのか再び睨んでくるが、先程までの力は無い。
 ネロにとって非常に残念なことに、どうやらかつて三年以上続いた超スパルタ教育のせいで、彼は理不尽な状況に慣れきってしまっているらしい。
 最近いろいろヒドいツナ達との生活も、いつの間にかその疾走感を楽しんでしまっている。
 風は感じないけれど全力で走っている感じが確かにするのだ。楽しくて面白くて、たまに辛い事があって、疲れて……それ以上に心を満たす充足感。
 誓って言うがマゾヒストではない。
 ただ彼は、面白いことが好きなだけ。
 面白い奴らの傍にいるのが好きなだけ。
「俺もいよいよ末期かな……。」
「心配すんな。前からだ。」
「……マジでか。」
 ポフっと肩の上に乗ってきたリボーンに髪の毛をいじられながら溜息をつけば、ミョ〜ンと頬をひっぱられた。
「まあ、これだけ立て続けに大変な目に遭ってもまだツナ達のそばにいたいって思うんなら……お前の想い、きっと本物なんじゃねーか?」
「……!」
 引っ張られたせいで微妙に赤くなったネロの頬をさすって元先生が言う。
 思えば何もかも彼のせいだった。
 あの日助けを求めてしまったのをいい事に、並中に入学させられ、ツナ達と何度も衝突させられた。何事もなく平淡にすごすつもりだった日常のプランはいともあっさりぶち壊された。
 極度のマフィア嫌いの彼は、それでも、ツナ達の傍を好いた。
 人を信じるということを忘れてしまった少年がやっと自ら絆というものに触れた。
 ところが、彼の逃げ癖は驚くほど頑固だ。
 きっと強引に捕まえでもしない限り、彼はこうして陽の下に姿を現わすことなどなかった。
 ネロは息を詰め、詰まった息をそのまま溜息に乗せて吐き出した。
「俺は……マフィアなんか嫌いだ。」
「ああ。」
「ボンゴレも、」
「そーだろうな。」
 リボーンは肯定しかしなかった。
 無性に悔しくなって来るが、ネロにはもう睨むだけの力も残っていない。
「お前マジでムカツク。」
「おまえはいつまで経っても天の邪鬼だな。」
「うるせえ。」
 立てた膝に顔をうずめる。
 足場が悪くなったためかリボーンは後頭部の上に移動した。
 彼には敵わない。
 昔からそうだった。
 何故ってそれは、
「おめーもツナも、オレの生徒だ。」
 リボーンは、彼の先生だから。
「諦めろ。学校からはいくらでも卒業できるが、先生からはそれがいくら頑張ってもできねーもんだ。」
 先生という職業は、生徒に疎ましがられてナンボだ。
 ネロは昔、リボーンがそんなことを言っているのを聞いた。
 先生と名乗るのには相応の覚悟がいる。
 見返りを求めてはならない。
 邪魔くさがられて嫌われたって、先生は生徒のために出来ることを続けなければならない。
 それが出来ないのなら、教え導く立場にはなれないし、なってはいけない。
 けれどいつか、生徒が先生の想いに気付いてくれることがあったのなら。
 それは先生にとって唯一無二の幸せとなる。
「お前は本当、いつだって、やり方メチャクチャすぎだ。いつかPTAに訴えられるぞ。」
「オレの道を妨げる者は何人たりとも消すのみだ。」
「ホントにやるなよ頼むから。」
 ネロはゆっくりと息を吐きだした。
 細く長いそれの後、彼はほとんど棒読みに近い調子で、不意にこぼした。
「……偉大な先生に恵まれて、俺らは幸せ者だよ。」

 
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