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 空峰愁。
 2年A組、出席番号14番。
 4月1日生まれ(冗談だろうと思ったら本当だった。)イタリア産だが、一般に言われるほど浮ついてもいない、むしろ変なふうに落ちついた子。
 身長159cm、体重46kg(リボーン情報)。BMI指数で見ると痩せすぎ。あと9kgほど太るべき。
 座右の銘は“君子危うきに近寄らず”。
 どこで習ったのか日本語はかなり上手い。日本人とほとんど変わらない。
 成績良好。日本史はさすがに苦手だそうだが、それでも平均点二十点オーバー。現在体育でやっているバスケットボールでは、某バスケ漫画の某峰君的な活躍を見せている。
 転校してきて二ヶ月近くになり、既にクラス内には馴染んでいる。しかし授業中ペアをつくるときなどは今でも沢田綱吉らと組むことが多い。
 最近ついに一年生たちによって、山本武、獄寺隼人、笹川良平らと合わせて並中四天王と呼ばれるようになった。(風紀委員は数えないらしい。)
 ここまでを統括して雲雀が感想を述べるなら、変な子、である。


「愁。」
「はい。」
「来週末のことだけど。」
「ああ、夏祭りですね。」
 余程沈黙がつらかったのだろう。あからさまにホッとした顔で彼が反応する。
 呼ぶと振り向く。話しかけると応える。
 それはひょっとして心地いいことなのかもしれないと雲雀はつい最近感じるようになった。
「俺は多分ツナ達と行きますけど、一緒に来ますか?」
 こいつに対してだけ。
 変わった子だが、これは雲雀の調子を狂わせる天才だ。
 雲雀は戦うのが好きだ。
 他の何よりも好きだ。
 一人で戦うのが好きで、邪魔者や足手纏いがいないのはそれだけで爽快だ。
 だから元より不足も寂寥も無かったというのに、金曜日の放課後にふと寂しくなるような、この頃そんな感覚を時々覚えるようになった。今まではただ麻痺していただけだったのだろうかとさえ先日にはとうとう考えさせられた。
 余計に吐きそうな衝動が溢れた。
「行くわけない。」
「ですよねー。」
 自分で誘っておいて、奴はいかにも真剣な顔とポーズ付きで「いやあ行くなんて言ったらどうしようかと思いましたよー」なんて頷いてみせる。さっきまで買ってきたばかりのハムスターみたいにおどおどしていたくせに。
 雲雀がとりあえず後頭部をはたいておくといつもの猫みたいな声が不機嫌そうに漏れた。
 彼を色に例えるなら透明だろうかと雲雀はつくづく思う。
 どうやっても掴めない色、留めておけない色だ。
 そのくせ征服欲旺盛と言わんばかりにこちらのことを引っ掻き回してくる。
 会うたびヒイヒイ言ってるわりにそれでも決定的な断交に踏み切るでもなく、目が合うごとに、浮つかせたり苛々させたり。
 草壁もあれはあれでよく分からない、懲りない奴だが、あちらはまだ扱いやすい。
 しかしこいつは駄目だ。いくら御そうとしても全くうまくいかない。こんなことは初めてだから雲雀には対処法など見当もつかない。
「君、本当、ふざけてるよね。」
「え……す、すいません。 (なんかまた怒ってる……。)」
 唯一の救いは、ちょっと睨んでやってもまだ逃げない辺り、可愛い顔してどうせコイツもろくでなしなのだろうと思えることぐらいだ。
 何でも屋『黒猫』、だったか。
 裏社会最強と名高い彼のことは断片的にだが知っている。
 左目の下の刻印、そして金色の相貌。
 その存在を耳にしてからはいつか対戦してみたいとずっと思っていた。
 雲雀がひいきにしている並盛の情報屋連中は、まさかあの黒猫がこんな子供のわけがないし違うだろう、悪ふざけで真似ているだけだろう、としきりに言っていた。気味が悪いくらいの否定。取りつく島もない。金でも貰ったのか、それとも。
「恭弥さん祭りとか来なさそうだし、おみやげでも買って来ましょうか? 綿飴とか林檎飴とか。」
「僕がそんなもの食べると思うのかい。」
「じゃあクレープとか?」
「…………。」
「ゴメンナサイ。」
 しかし雲雀の方も、不思議な事に近頃は、あれほど期待していた相手を目の前にしているというのに、因縁つけてまで相手取りたいとは到底思えなくなっている。無論、臆しているわけでは毛頭ない。今のところは気が向かないだけだ。
 なんにせよ、要は並盛を荒らさなければいいのだ。この街の秩序に踏み入らない者を一々ほじくり出して襲うのはさすがに面倒だし、尻尾を掴ませない気ならそれでも構わないだろう。
 彼が何しに並盛に来たのか知りもしないのにこの判断というのも大概甘いのだけど。
「愁、」
「はい?」
 こっちをちらりと見てまた前を向く金色の目。柔らかそうな黒髪が彼の動きに連動して揺れている。
 雲雀はこいつをどうしたいのだろう。
 悪名高い何でも屋を街から追い出そうとするでもない。戦うためだけの存在にするでも無い。
 手を伸ばせば届く、それでも彼はいつでもここから離れて行ける、そんな距離感。
「……学校、戻ろうか。」
 彼は素直に頷いた。

 
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