スリーサム・バトルマニア
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「あっれ? お師さまがでっかくなった?」
 双眼鏡の向こうを歩く少年の姿に、マルはビルの屋上に寝そべったまま首を傾げた。先日十八歳になってついに声が低く落ち着いた彼は、まだ少し違和感のある喉を撫でて唸る。
 そういえばイーピンからの手紙にそんなことが書いてあった気がする。ナントカのナントカみたいな名前のイベントで、師匠がでっかくなったり縮んだりアルコバレーノを辞めたりしたと。
 ついでに師匠からの手紙にも同じようなことが書いてあった気がする。もっとも、ちょっと前までマルが住所不定だったせいで、何通かをまとめて受け取った時にはとうにイベントの開催日を過ぎ去ってしまっていたわけだが。
「それにしても頭のシッポもない……? そしてなんだか目つきが悪い? んんー?」
「ねえ、ちょっと、なんなの。」
「わぷっ」
 少年が視界から消えたと思ったその直後、少年ご本人に双眼鏡を鷲掴みにされた。観察していたのがバレていたらしい。そしてこの一瞬で彼はここまで移動してきたらしい。道路からビルの屋上へ、一瞬だ。何者だろう。
 マルは双眼鏡を顔から離して、横で仁王立ちする少年を見上げた。
「あんた誰ですか?」
「こっちのセリフなんだけど。」
 謎の少年は不機嫌そうだ。
 見れば見るほど、師匠に似ている。
 親戚がいるなんて聞いたことないけどなあ、と悩むマルは寝転がったまま起き上がりもしない。
 するとそこへ、彼にとっては嫌というほど聞きなれた声が背後から届いた。
「ああ、そこにいましたか。」
 面白いほど肩を跳ねさせ、マルはぐりんと鳴りそうな勢いで振り向いた。
 そこにいたのは予想通り、赤い中華服と妙に柔らかな物腰の赤ん坊。
「げっ、お師さま!」
「お師さま?」
「あなたも一緒だったんですね、雲雀恭弥。私の弟子が失礼しました。」
「弟子?」
 ペコリと頭を下げた風の言葉に、雲雀は意外そうに足元の不審者を見下ろした。このいかにも馬鹿でだらしなさそうな青年が、風の弟子。
 見下ろしている先で風が青年の頭に飛び乗ってくる。虹の代理戦争という短い付き合いでは確認できなかった、ちょっと気の抜けた笑みを浮かべて。
「よく日本まで一人で来れましたね。よしよし。」
「だ、だって死ぬ気で行かなきゃ追いかけてくるじゃないですか!」
「可愛い弟子が心配ですからね。」
「ダウト!!」
 風は親しげだが青年の反応を見るに仲がいいのかは不明だ。
 しかし師弟というのは本当のようで、青年は風に頭が上がらないようだし、風は風で上機嫌にそんな青年の頭を撫でている。
「随分声が低くなりましたね。そうだ、折角だし手合わせしましょう。一年の山籠もりでどれだけ成長したか見てあげます。」
「ひいい助けてそこのお師さま似のガキンチョ!!」
「咬み殺すよ。」
 雲雀がトンファーを持ち出すもマルは地べたでドベーっと腹這いのまま動こうともしない。いつもの雲雀ならそのまま二度と起き上がれなくしてやるところだ。
 しかしここで、さっき聞いた情報が活きてくる。
「ねえ、」
 名前を呼ばずとも察しのいい風は雲雀に視線を合わせてくる。この赤ん坊のこういうところは嫌いじゃない。
「彼、強いの?」
 トンファーの先端でマルを指すと、風は先程までと別種の笑みを浮かべた。
「まだ荒削りですが、我が弟子ながら中々です。」
「ふぅん、そう。」
 あの風をして中々と言わしめる青年。
 馬鹿すぎて殺気にすら気付いていない、というわけではないらしい。
 興味の沸いてきた雲雀が改めてマルを見下ろすと、さすがに身の危険を感じたのか、器用にも風を揺らさずにマルはガバリとセイウチのポーズで起き上がった。
「はッ、さてはガキンチョもお師さまの同類!?」
「その呼び方やめてくれる。」
 開始のゴングもなく風ごと殴り飛ばせる勢いでトンファーを振り下ろす。
 ――ガキンッ、
「ワオ、やるね。」
「……ッなんっつー馬鹿力!」
 いつのまに装着したのか、ゴツいメリケンサックでマルは雲雀のトンファーを真正面から受け止めた。
 不安定な体勢、そのうえ、片手で。
 結果を確信して目を閉じもしなかった風は、マルの頭の上に腰掛けたまま一層楽しそうに笑う。
「雲雀恭弥は強敵ですよ、マル。勝てたらごほうびをあげましょう。」
「よーっしヤル気出てきたぁ!!」
 力任せにトンファーを押しのけて立ち上がり、飛び散る火花を浴びながらマルが別人のように乱暴な笑みを浮かべる。
 意外や意外、相当なパワーファイターらしい。
「……勝てたら?」
 いよいよ興が乗ってきて、雲雀はもう一方のトンファーでマルに殴り掛かった。
「ぐちゃぐちゃにしてあげる。」

 邪魔をしないようマルの頭の上から降りた風は、ビルからビルへ飛び移りながら熾烈な戦闘を繰り広げる二人を眺めていた。
 どちらも大変楽しそうでなによりだが、一つだけ問題がある。
 下手したら虹の代理戦争の時より楽しそうな雲雀のことだ。
「……雲雀恭弥、まさか、顔だけじゃなく好みまで似ているなんてことは、ないですよね……?」

     
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