四角い星とえた春
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「ムクロは上手だから好き。」
 マルは鈴を転がすように笑って答えた。
 鮮やかな若葉色の目の中央は、花が咲いたように黄色く色づいている。
「クフフ、それは良かった。僕も君のことは好きですよ。君の鳴き声はとても愛らしい。」
「また買ってよ。次は三回分のお金で一回サービスしたげる。」
「いえ……それはもう叶いません。」
 骸は苦笑して首を振る。
 スラム化した旧市街を骸の隣に並んで歩く少年は、ぱちぱちと複雑な色の目をしばたかせた。
 間も無く無垢な瞳が悲しげに曇る前に、骸は仔犬にするように指の背でするりとその頬を撫でる。
「飼い主を殺してしまえば、その犬は僕のものでしょう?」
 含み笑った骸の言いたいことを理解してか、別の意味でマルは瞳を曇らせる。
「ほんとにやるの? ムクロに負けられたらオレやべーんだけど。」
 マルが不安そうに骸を見上げる。
 この少年が怖がるのも当然だ。元締めへ殴り込みをかけようとしている人間を、脅されてとはいえアジトまで案内するのだから。もし骸が負けでもしたら、とばっちりでマルまで八裂きだろう。
 この旧市街の一角を少年少女の放牧地にしているマチェライオファミリー。骸の嫌いな要素を一から十までコンプリートしたような組織で、前から目障りで潰すつもりだった。
 しかし今となってはそれもついでの理由だ。
 骸は優しげに笑って隣の強張った肩をそっと抱く。
 安心させるように。
 逃げられないように。
「そう不安がらないでください。君の飼い主程度なら問題にもなりませんよ。」
「はー? あいつらマシンガン持ってんだぜ? 二十人もいるし!」
「クフフ、それはそれは、残念ながら本当に問題になりませんねえ。」
 銃を怖がるあどけなさが骸にとっては微笑ましい。
 春をどんなに安くひさごうが、これから目の前で殺し合いが繰り広げられようが、いつも平然としている少年の仕草だからなおさらだ。
 やはり放し飼いの男娼にしておくなんてもったいない。
「かわいい子ですね、君は。」
 マルが首を傾げて骸を見上げる。
 およそ倫理と呼べるものの殆どを欠いた、無垢で可憐で虚ろな瞳。
 たまらなく愛らしくて、媚薬のように匂い立つその瞳を、骸は一目見た瞬間気に入った。
「君は新しい首輪の色でも気にしておいた方がいい。」
 スラムの底で歪に息づく美しい少年へ、骸は掠めとるようにキスをした。

     
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