たのしい しゅぎょう
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 最高に可愛くなくて可愛い一番弟子が、晴れてボンゴレの守護者の座に就いてはや数年。初めての弟子をきっちり育てきったという自負を胸に、ディーノは自信満々に二人目の弟子をとった。
「師匠! お水どうぞ!」
「サンキュ! おまえもちゃんと飲めよー。」
「はい!」
 それがこちら。一番弟子を彷彿とさせるまんまる頭である。見事な闇色だった雲雀と対照的に、太陽を透かして明るい金色に輝く髪。うりうりとかき回してやるとマルは擽ったそうにはしゃいでいる。
 とある伝統と格式ある正統派マフィアの大ボスが、歳をとってようやく授かった念願の一人息子、それがマルだ。幹部共々拳銃の代わりにテディベアとガラガラを装備して、眼光鋭いその目に入れたって痛くないくらい猫可愛がりした結果、彼の息子はすくすくと成長し、マフィアの後継者とは思えないほど素直ないい子に育った。先日めでたく十五歳を迎えた息子の家庭教師をドン・キャバッローネに依頼するあたり、彼がいかに息子を愛し、期待を寄せているかがよく分かるというものだ。
 マルはそんな父の期待を裏切らない、絵に描いたような優等生だった。可愛い顔して上々の戦闘センス、素直で師匠の言うことをよく聞き、気遣いまでできる。いつかのじゃじゃ馬を思い出しては遠い目になる師匠である。
「はー、マルはほんっとーにいい子だなー。天使だ天使……。」
 ぎゅーっと抱き締めるとくすぐったいのかマルはキャッキャと笑っている。その姿は舐めまわしたく……ちがう、撫でまわしたくなるほど可愛い。
 マル可愛い。マジ天使。大好き。最近ちょっと怪しい方向に思考回路が傾きつつあるディーノである。
「やあ。」
 後ろから唐突にかけられた声に、背筋が凍った。
 速やかにマルを開放し、後ろを振り向く。
「よ、よお恭弥、珍しいなおまえがオレに会いに来るなんて。久々に修行でもするか?」
「跳ね馬のくせに相変わらず師匠気取りかい? 懲りないね。」
 第一声がこれである。このじゃじゃ馬め。
 ディーノが口元を引きつらせるのと逆に、パッとマルの目が輝く。
「キョーヤ兄さん!」
 そして兄弟子に駆け寄っていく天使。
 いつも思うが、なんでマルはこいつにこんなに懐いているんだろう。
「キョーヤ兄さん見てた頃の師匠ってどんなだったんですか?」
「へなちょこだったよ。今と変わらずね。」
「やっぱり! 師匠ったらこないだもロマーリオさんが目を離した隙に」
「マルー! ほら、もう休憩終わり! 次の修行行くぞー!」
「あれ? 今日は修行の方はもう終わりですよね?」
「そうだよ。マルはこれから僕と授業だからね。」
「じ、授業?」
 聞いてないんだが、と抗議しようとして、はたと気付く。
 視線の先には凶悪な笑顔を浮かべる雲雀と、心の底から楽しそうにその授業とやらを待っているらしいマル。
 黒と金のまんまる頭。
 あれ? マル、似てるな? そっくりだな?
「あ、あれー? おっかしいなー、恭弥が二人いるように見えるんだが……?」
「実地授業だよ。後継者にふさわしい教養を余すことなくと、この子のパーパは仰せだからね。仕方ないから僕も一肌脱いであげることにしたんだ。」
 兄弟子としてね、と笑う雲雀の顔に兄らしい慈愛は皆無だ。
 マルも同じようにニコニコ。気遣いも戦闘センスも身に着けた、一番弟子に勝るとも劣らない優秀な二番弟子。いずれあの眼光鋭い大ボスの跡を継ぎ、伝統と格式ある正統派マフィアのドンとなる若鳥である。
 ディーノの中で何かが崩れ去った。
 何かってあれだ。そう、“幻想”だ。
「さてと。それじゃマル、約束通り、実際の取引現場に連れてってあげるよ。行こう、車を待たせてる。」
「はい兄さん! 格下相手の時は舐められないように、とりあえず出会い頭に一発かましておくんですよね!」
「よく予習してるね。いい子だ。」
 雲雀が弟弟子の頭をよしよしする。
 きっと兄弟子と同じく有能極まりないマフィアになるだろうその子の頼もしい背中を、ディーノはちょっと悲しげな眼で見送ったのであった。

     
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