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土砂降りだった。
黒ずくめの傘が重い。
ボンゴレ本邸は薄墨に霞んでいる。
「よくやったと思うよ。」
棺桶の前に、傘が二つ並んで立っている。
同盟ファミリーの幹部同士。若造同士。生まれながらのマフィア同士。
いろんな同士で繋がった二人だった。マルの方が年下で、日本ではまだ高校生のはずで、それでも幹部を務めてきた期間は獄寺よりずっと長かった。
奇襲に、先に気づいたのはマルだった。
「あと二、三人死んでてもおかしくなかった。よくやったよ、僕たちも、彼らも。」
これ以上ないほど、と続けてもいい。
五人
たった五人で済んだのだ。
部下の棺桶を見つめたまま、獄寺が煙草を取り出して咥える。
「悔やんだって死んだ連中は喜ばない。」
「そりゃそーだろ、死んでんだから。」
ジッポの火が雨にぼやける。
「死人に喜びもなにもあるわけねー。」
傘から漏れ出た煙が細く空へ上っていく。
夕日も見えない黄昏へ。
マルも自分の懐から煙草の箱をつまんだ。
「こないだ成人したよ。」
トン、と箱の尻を叩いて一本取り出す。
口にくわえると、紙の表面はいつもより柔らかに感じた。
ジッポの蓋を開けてマルは肩をすくめた。
「これで合法的に煙草が吸える。」
「今更合法とか気にすんのかよ。」
「あれ、オイル切れてる。」
「聞けよ。」
「火、ちょーだい。」
傘同士が軽くぶつかる。
傾いだそこからぼとぼとと水滴が流れ落ちた。
自分の傘から身を乗り出して、隣の傘に一歩踏み込む。
「ごめん、隼人。」
「なんで謝んだ。」
湿気て重たい煙が目に沁みる。
「よくやったんだろ、オレたちは。」
煙草同士が合わさって、薄闇に灯火がぼうっと光った。
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