「あー、暇」

「…じゃあなんで手前は俺ン家居るんだよ」

静雄の家に我が物顔で居座っているのは、静雄と全く同じ顔をした男。
静雄への想いで出来た思念体、デリック。違うと言えば彼は白いスーツ、ピンクのストライプのシャツ。
ピンクのヘッドフォン。そしてニヒルに笑う顔。

「えー?だってよー、臨也ン家に居るの飽きたんだもん」

「…だからって何で俺の家…」

「だって今日静雄、オフの日だろ?暇かと思って、遊びに来てやったの」

「なんで今日俺が仕事無いって知ってんだ…」

「だーかーらー。オレは静雄の思念体だから静雄の事は何でも分かるんだって。何度も言わすなよ」

ケラケラと笑うデリックに静雄は頭が痛くなる。彼は自分から創られたのだと言う。
本当にそうだろうか。こんなにも彼と自分は違うのに。
はぁ、と溜息を吐いた。特にする事もなかったのは確かだが。よりによってまさか彼が来るとは思ってもいなかった。

「ああ、そうだ静雄」

「…なんだよ」

「暇なら朝までニャンニャンしようぜ!」

「断る」

えー!?なんてぶーたれているデリックに静雄は即答した。誰だって嫌に決まっている。
誰がするか、誰が。呆れて物も言えない。こんなのが自分を元にして生まれただなんて信じたくない。

「しずおー…」

「そんな仔犬見たいな目すんな。キモいだけだぞ」

「っち」

どこぞのホストかお前は。格好もホストみたいだし…。そういやしょっちゅうラブホに行ってるって臨也が言っていたな、と静雄は思い出す。
ますます自分ではない。なにを間違ってこんなふうに創られたのだろう。
外見だけが似ているだけで他は何一つ同じではない。
これならまだ臨也のところにいるアンドロイドの津軽の方が似ているのではないだろうか。

「じゃあ今日は静雄に一日中べったりくっ付いてていいか?」

「………」

「えー?無視ぃ?じゃあさ、一日中べったりか、朝までニャンニャン、静雄はどっちがいいんだ?」

「その二択しかねぇのかよ。どっちも断ったらどうすんだよ?」

「もち、朝までニャンニャン!!」

「…結局一択じゃねぇか。…はぁ、もう好きにしろ」

「え、ニャンニャンしていいのか?」

「それは止めろって言っただろうが!くっつくのは構わねぇっつったんだ」

そう言えばデリックは嬉しそうに笑って静雄の背に抱きついた。
頭を静雄の首元にすり寄せればくすぐったそうに静雄は目を細める。

「しずおー、好き好きー!愛してるー!」

「あー、はいはい」

「…てめ、信じてねーな?オレはホンキなんだぞー?オレは静雄をあーいーしーてーるー!」

「耳元で喧しい!黙って抱きついてろ!」

ふと顔を見れば耳まで真っ赤になった静雄がデリックの服を小さく掴んでいた。
嬉しいくせに、素直じゃない。普段絶対に言われない事を言われると静雄はどうしたらいいのか分からなくなる時がある。
例えそれが人間じゃなくても、少なくても静雄の心は本人の意思と関係なく喜んでいるのだ。
こんな自分でも愛されているのだ、と。

「そうだ。オレ、将来静雄と結婚する」

「頭可笑しいのか手前。あのノミ蟲に影響されたのか?可哀相にな」

「ちょ、臨也と一緒にするのヤメロって。オレだってあんまアイツ好きじゃねーもん!」

「あ?そうなのか?よくアイツん家に居座ってるから好きなのかと思ってた」

「だってオレの静雄を独り占めすんだもん。オレ、臨也の事キラーイ!だーい、キライ!」

臨也の話になるとデリックは少々不機嫌になった。そこまで嫌いなのだろうか。
抱きついてる腕に力を込めるとデリックは悔しそうに呟く。

「静雄は、オレのなのに」

「や、ちげぇし」

「ぶー、静雄ったらつれねーの!でもそんな処も好きだぜ」

嘘を吐いているようには最初から見えなかった。模造品がオリジナルに想いを寄せるものと彼は同じ想いなのだろうか。
静雄自身恋や愛などは分からない。どういったものなのか、知らない。
だからデリックの想いが本当なのか。それが愛なのか理解できない。
でも。

「…ありがとうな」

「ん?…へへ、どーいたしまして」



いつの日か、本当の愛を知るその日までありったけの愛を貴方に捧げよう

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デリ静…好きです。
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『BRAIN』の花姉様に捧げまする!