愛に男も女も関係ない。
六条千景という人間は、何よりも優先的な存在が女であった。
女は弱い。男よりも遥かに力は無いし。生きてきた中で何よりも命を張って守らなければと思える存在が女だったのだ。
女に暴力を振るう奴がいればそれは暴力を持って制裁する。それがもし女が女に暴力を振るっていたら、
千景は決して暴力は振るわない。なぜなら女は守らなければならない存在だから。
男が女より力が強いのは当たり前なのだ。
千景は女が好きだ。自分には持っていない物を沢山持っている。
本気で恋をした事はないが、女と触れ合い、喋っているだけで心が温まる。
しかし千景も男である。喧嘩というモノは好きだ。内なる獣が眼を覚ます瞬間でもあると言える。
もし連れの女達が「止めて」と言っても、覚醒状態であったら止められる自信はない。

そんな中、池袋に喧嘩人形と謳われる最強の人間が居ると知って、少し興味を持った。
どれだけ強いのだろう。自分より強いのだろうか。
付き人のように何人もの女を連れて廻っていた千景は池袋に脚を踏みいれるや否や、一人になった。
自分が喧嘩をしている場面を見せたくなかったのもあるが、一対一で勝負してみたかったのもある。
金髪、バーテン服、長身。そんな人間が本当にいるのだろうか。
うろうろと夜の池袋の街を歩いていると、本当に三拍子そろった人間が、いた。
あんなヒョロヒョロの男のどこが池袋最強なのだろうか。千景は不思議で堪らなかったが。

「なぁ、あんたが池袋最強って謳われてる平和島静雄か?」

「ああ?」

「ちょっと俺と勝負してくれよ」

そう言って殴りかかった。避けると思っていた。けれど、その男は避けずに千景のパンチを顔面に受け止めた。
まるで石を殴ったようだと千景は思った。こんな固い人間は初めてだと考えていた、瞬間。
腹に鋭い痛み。殴られたのだ。これは本当に拳なのだろうか。まるで鈍器ののような物で殴られた衝撃だった。

「いきなり何すんだ、テメェ」

痛い、と感じるのは久しぶりだ。本当にこの男は池袋最強と謳われても可笑しくない。
愉しい、と、はっきり思った。こんなに心が弾むのは何年ぶりだろう。
また殴り掛った。今度は軽く受け止められて、また殴られた。
その男の暴力は簡単なものであった。ただ、殴る。殴るだけだ。
それだけなのに、どうしてこんなに心が躍るのか。

「ハハ…アハハハッ」

「…??」

楽しい。愉しい。愉しい。これが喧嘩。これが本当の喧嘩なんだ。
今までの温い喧嘩なんかとは明らかに違う。これだ。
きっとこれを待っていたんだ。千景の心は歓喜に溢れ、弾みだしていた。

「…よく分かんねぇけど、取りあえずもう黙れ」

千景が完全に気を失ったのは、静雄のパンチを四回受けた後であった。
静雄は静雄で、自分のパンチを四回も受けた人間などいなかったものだから少し驚いていたが。
そんな事はもう忘れ、賑やかにざわめく池袋の街へ消えていった。

千景が眼を覚ます頃には、そこは病院のようであった。
ベッドの周りには連れの女の子達で溢れかえっていた。

「ろっちー、大丈夫?」

「あ、マイちゃん。あー…結構平気かも」

「えー、嘘だよ。お医者さんがもう少し安静にして下さいって言ったから酷いんじゃないの?」

「ミユちゃんも来てくれたんだ。…そんなに痛くないんだけどなぁ」

痛い、というよりか、もう一度殺り合いたいというのが本音であった。
決して自分はあの男に敵わないだろう。けど、気になって気になって仕方がない。
これがもしかして噂の『恋』ってやつなのだろうか。



(だとしたら、本気で笑えないな…)
(ろっちー?どうしたの?頭でも打った?)

――――――
ろっちーの喋り方分からない…。
でも、六静っていいと思う。
あ、六門もイケると思う今日このごろ。

『Aコース』様よりお題をお借りしました。