某日、池袋。学校帰りの少年は目の前で起こっている光景に驚いていた。
あの、池袋の喧嘩人形と謳われる存在が。愛らしい猫と戯れていた。
それも見た事のない笑顔で。ただただ、驚く事しか出来ない。
だけど、どこかで可愛いと思っている自分も居て。
それは猫に対してではなく、その喧嘩人形に対してだった事に少年は自分自身に心底驚いていた。

「え、っと…平和島、静雄…さん?」

金髪、バーテン服、長身、と三拍子揃えば間違えるはずはないのだが。
取りあえず確認は取りたかった。間違っていたらどうしよう。

「…、確か…エアコンみたいな名前の…」

「竜ヶ峰帝人、です」

エアコン…。臨也さんと同じ事言ってる…。
そんな事を言ったら確実に明日はやって来ないだろう。言いかけた言葉を必死で飲み込む。

「ああ、そんな名前だったな。こんな処でどうした?」

「あ…学校の帰りなんです」

「へー」

帝人と話をしている最中にも静雄は猫と戯れている。
帝人はいつか猫が投げ飛ばされるのではないか、と内心ヒヤヒヤしていた。
しかし、時々静雄がふっと笑うのを見て帝人は胸にキュンとしたものが走った。
可愛いと思った。猫ではなく、確実に静雄に対して可愛いと思ったのだ。

「静雄さんって、…可愛いですね」

「…は?」

混乱のあまり言ってはいけない事を言ってしまった。眉間にシワを寄せてこちらを見て来る静雄。
ああ、殺される。帝人は次にやってくる痛みに耐えようと眼を瞑った。
しかし、いつまで経っても痛みはやって来ない。どういう事だろう。
薄ら眼を開くと、そこには猫とまだ戯れている静雄の姿。あれ?怒ってはいないのだろうか?

「あの…」

「…なんだよ」

「お、…怒ってないんですか?」

「何で俺が怒らなきゃなんねぇんだ?」

「え?」

「別に嫌な気はしてねぇし、そう思う事はお前の勝手だしな」

そう言ってまた猫とじゃれ始める。時々引っ掻かれて顔を顰めるが、次の瞬間には満面の笑顔に変わっている。
やっぱり、可愛い。いつも見ていた静雄の姿が自販機を投げつけたり苛々している時だったからか、
普段とのギャップでそう思っているだけなのだろうか。帝人はいよいよ訳が分からなくなってきた。
男に対して可愛いなんて思うなんて。変だ。確実に可笑しい。
ああ、でもやっぱり。

「静雄さんって、可愛いです」

「…何度も言うんじゃねぇよ。照れるだろうが」

うん。可愛い。これは園原杏里に対して思う可愛いとかそういう事ではなく。
これはまた別の可愛い。一体これはなんだろう?



(静雄さんって猫好きなんですか?)
(いや、別に)
((え、ええぇええぇ…))

―――――
これから帝人様は自分の気持ちに気付いて臨也さんに対してのライバル宣言が…!
…とかそういう妄想。帝静もイケるな、これ…。

しかし、短いな…。