某日。今日の池袋の街は賑わっていた。
理由はどうやら羽島幽平が撮影でこの池袋まで来ているとの事であった。
田中トムは隣にいる平和島静雄に眼を向けた。静雄は至って普通の表情をしていたが、
あまり機嫌は良くない。不意に時計を見ると、もう昼の一時を指していた。
そういえばまだお昼を食べていなかったな…。

「静雄、そろそろ飯食うべ」

「…あ、はい」

「何処で食う?マック、モス、それかコンビニ…静雄は何処がいい?」

「俺はどこでもいいっす」

「そうか?じゃあ…マック行くか」

ドレットヘアーの男と金髪のバーテン服を着た男が二人揃って歩いている姿はなんとも不思議なものだ。
だがそれはこの池袋にとってはいつもの光景。
静雄はこの池袋ではとても有名な存在だ。「池袋の自動喧嘩人形」など謳われるほど知れ渡っている。
それを手なずけているのが、トムであった。

(別に俺は手なずけてる訳じゃないんだけどな…)

どこでそんな噂が広まったのか。つくづく噂とは怖いものだと痛恨する。
店にはいると、どこの席も満席。座れそうな処はどこにもない。

「あー…、静雄。外で食う事になるけど…、いいか?」

「俺は食えれば何処でもいいっすよ」

「じゃあ、適当に買ってくるから…そこで待っててくれ」

「うす」

静雄は、怒りださなければ普段は良い奴だ。怒りださなければ、の話しだが。
暴れ出して街灯やら自販機を投げ出したら自分でも抑えきれないかもしれない。
キレやすい処さえ除けば、優しいやつなのは確かなのだが…。
はぁ、と深い溜息を吐いた時。外から大きな破壊音が聞こえた。
まさかとは思うが、嫌な予感がする。振り返ると、自販機が宙を飛んでいた。
店員から持ち帰り用の紙袋を受け取ると、街灯やら看板が飛び交う街中へ出た。

「臨也ぁあッ!死ねてめぇえええッ!!」

「おー、怖ッ!シズちゃんは相変わらずの馬鹿力だねぇ」

またあの男か…。静雄を対峙している黒髪の男。折原臨也が絡むと静雄は周りが見えなくなる。
これを止められるのは、実際の処トムしかいない。

(これ、俺が止めるのか?)

そんな事を思っていると、すぐ近くからか細い声が聞こえた。

「…田中、トム…さん?」

「ん…?」

声を掛けられた方を向くと、そこには良く知った顔が。

「えー、と…静雄の弟の…」

「幽です」

「ああ、そうそう。そういや撮影で来てたっつってたな」

無表情の幽。兄の静雄と違って感情を顔に表さない幽は、今や絶大な人気を誇る俳優だ。
そんな彼が何故自分に話し掛けてきたのか。

「兄さんがいつもお世話になっているので…」

「あー、いやいや。そんな事ないぞ?まぁ…少しは自重して貰いたいとは思っているが…、それは仕方がない事だからな」

「すみません。ご迷惑をおかけしてます」

ガシャーン、とすぐ横に自販機が飛んできた。このままだと一般人にまで被害が及ぶかもしれない。
いや、すでに及んでいるのだろうけど。
これ以上被害を出さないためにも、まずは静雄を落ちつけせる事が第一だとトムは考えた。

「静雄、ほら…飯買ってきたから、食うべ」

「………うす」

「あれ、急に戦意喪失?おーいシズちゃーん」

「黙れノミ蟲。てめぇの相手はまた今度してやる」

持っていたガードレールを振り下ろすと、静雄はトムからマックの紙袋を受け取る。
自分の言葉に素直なのは良いのだが、どうしてこうもキレやすいのか。
これからは必要以上に静雄を一人にさせないようにしようとトムは考えた。



(あれ…幽、何でお前トムさんと一緒に居んだ?)
(撮影で池袋まで来たから…、ちょっと顔出しに)
(静雄、お前兄貴思いの良い弟持ったな…)
(兄さん、トムさんに迷惑かけちゃ駄目だよ。兄さんはすぐ暴れるから)
(う、…出来るだけ心がける。トムさんも、すみません…)
(いや…俺は別に…)

―――――
あれ、シズちゃん総受けみたいになった。
トムさんの口調が分からないよ。

『それも一つのラプソディア』様よりお題をお借りしました。