「セルティ、君はとっても暖かいね」

『そうか?』

「うん。とても暖かいよ」

とあるアパートで、一人の男が真っ黒なライダースーツを纏った、“首から上がない”女に向かって話しかけていた。
しかし男は決して一人で喋っているのではなく、ちゃんとした会話を交わしているのだ。
首の無い女は、PDAを使って会話している。首がないから離せないのは当たり前だが、彼女はそんな事は一切気にしていなかった。
白衣をまとった男、岸谷新羅は首のない女、セルティ・ストゥルルソンの腕にぎゅうぎゅうと抱きついていた。
新羅がセルティと出会ったのはもう随分と昔の話。彼は、彼女が好きだ。勿論恋愛対象として。
首が無いからなんだというのだろう。彼女はアイルランドにいた妖精、デュラハンで。
二人の関係はひょんな事から新羅の父親が彼女の首を盗んでしまった事から始まった。
初めは申し訳ないと思ったが、新羅は後悔していない。首が無くても、彼女は美しい。

『新羅、そんなに私は暖かいか?』

「そりゃあもう!地球温暖化なんて目じゃないくらいにね!」

そんなに暖かいのだろうか…。そっと自分の腕を触ってみるが、冷たいのか暖かいのか、分からない。
もしかして、本当は冷たいのでは?セルティは顔(実際は無いのだが)を真っ青にして、新羅の腕を掴んだ。
そのままPDAに自分の意志を打ちこんで伝える。

『し、新羅!もしかして私は本当は冷たいんじゃないのか!?』

「え?急にどうしたのセルティ」

『だって私は首が無いし、体温調節とかも…!』

「大丈夫だって。セルティ、君はとても暖かいんだよ。ほら、僕までポカポカだ」

『本当か?』

「本当だよ。なんならベッドの中でもっとポカポカになってもグファ!そ、そうそう…セルティはそうじゃなくっちゃイタタタ痛い、痛いよセルティ地味に痛いってぐえぇあああ」

本当は冷たかった。けど、そんな冷たさを感じないぐらい、僕は君が好きなんだ。
新羅はその言葉を飲み込んだ。都合のいい話だと自分でも思う。父親は彼女の首を盗んで、
そんな彼女を家へと連れ込んで、一緒に同居して。彼女の首がどこにあるのかも知っているのに。
首を見つけたら彼女が自分から離れて行ってしまう気がして。怖かった。
彼女を好きなのは本当だ。人間は嘘つきだから、平気で嘘を吐く。
自分の都合のいいように現実を嘘で塗り替えて。そうして生きて行くんだ。
君は冷たいけど、暖かいんだよ。だから僕は君が好きなんだ。



(セルティ、本当に、地味に痛い!)
(………)
(『今日のお前の晩飯は無しだ』、って、そんな!ごめん!ごめんよセルティ!大好きだから!ご飯無しは勘弁してーッ!)

―――――
新セル大好きです。
もっとバカップルな感じを出したかったが…。
無理でした。次も頑張る!!

『それもひとつのラプソディア』様よりお題をお借りしました。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -