僕が初めて会った人物は、僕の主(マスター)である臨也くん。
その次に出会ったのが、津軽だった。
津軽は僕がパソコンの中で一番初めに出会ったヒトだ。
僕たちボーカロイドは唄を歌う為に作られたアンドロイド。人間に似てはいるけれど、人間ではない。
人間になりたいなんて思った事は、僕は一度もない。
だって、僕は津軽が一緒に居ればそれでいいんだもん。
僕たちは臨也くんのパソコンの中にしか居られない。出られないんだ。
頑丈な透明の板があって出れない。僕は別に出たいなんて思ってないよ?
何度も言うようだけど、僕は津軽がいればそれでいいんだから。

「津軽、津軽、好き」

「うん、おれもサイケ、好き」

だからね、ずっと一緒にいよう?好き同士って一緒に居なきゃいけないんだって臨也くん言ってたし。
だから、これからもずっと一緒。そう、二人で約束した。
約束っていうのは絶対守らなきゃ駄目なんだって、これも確か臨也くんが言ってた。



初めに話したように、僕らボーカロイドは唄を歌うのが仕事のようなものだ。
臨也くんは、僕がココに来てから僕にしか唄を歌わせない。津軽も僕と同じなのに、どうして歌わないの?

「おれは、サイケと違って歌えるジャンル、少ないから」

「けど、津軽も歌いたいでしょ?僕が臨也くんに頼んであげようか?」

「ううん。そんな事したらサイケが、マスターに怒られる。だから、駄目」

津軽は優しい。本当は歌いたいはずなのに我慢して。僕はそんな津軽が大好きで。

「じゃあ、臨也くんに内緒で歌っちゃおうよ!」

「え、で、でも…」

「大丈夫だって!部屋≪フォルダ≫に居ればきっと大丈夫なはずだよ!」

僕がそう言えば、津軽は渋々了承してくれた。僕、津軽の歌大好きなんだ。
小さく小さく、津軽が歌いだした。津軽の声が好き。津軽のキラキラ光る髪が好き。
全部、好き。津軽もそうだと嬉しいな。
そんな小さな事の積み重ねの毎日が、僕は楽しかった。いつまでもこんな日が続けばいいのにな。


そんなある日、僕が津軽と遊んでいると臨也くんが僕を呼びだした。
どうせ大した事じゃないだろうに。そう思って立ちあがった。んだけど…。
服が引っ張られ、見下ろせば津軽が哀しそうな顔で僕を見つめていた。

「津軽、どうしたの?」

「…ぃ、行っちゃ、ヤダ。サイケ…!」

こんな津軽初めてみた。いつもは笑顔で僕を送り出してくれたのに。
ああ、そうか。今日の津軽はさみしがり屋なんだな。僕とずっと一緒に居たいだなんて、嬉しい事言ってくれるね。

「大丈夫だよ、津軽。すぐ戻ってくるよ」

「ぁ、やだ、…ふぇ、…サイケっ…行っちゃ、ャ、ダぁ…!」

子供のように駄々をこねる津軽に、僕はどうしたらいいのか分からなかった。
だってこんな津軽見たことない。いつも大人しくて、滅多に喋らないあの津軽が。泣いた事なんてなかった、津軽が。
どうにか落ち着かせようと、僕は震える津軽の肩を掴んだ。

「津軽、大丈夫。すぐ戻ってくるよ。どうせまた新しい歌を覚えろとかそんな事だから。終わったらすぐ戻ってくるよ。そうしたら、また一緒に唄、歌おう?」

「…すぐ、帰ってくる?」

「うん、帰って来るよ」

「…なら、待ってる、ずっと、待ってる」

津軽は渋々僕の服から手を離す。嗚呼、早く行かないと煩い臨也くんに消されちゃう。
津軽は喋るのが得意じゃないから、ゆっくりゆっくり喋る。本当は僕だってずっと一緒にいたいよ?
なのに臨也くんが邪魔するんだ。酷いよね。

「じゃあね、津軽。すぐ、戻ってくるよ」

「…ああ。分かった。すぐ戻って来て、サイケ」

白い部屋に津軽を置き去りにして、僕は部屋から飛び出した。
案の定臨也くんから言われたのは新しい歌を覚えろとの事だった。本当に、一々煩い人だ。
なんで僕はこの人と同じ顔、同じ声をしているんだろう。嫌で嫌でしょうがない。
でも津軽は僕の声好きって言ってくれた。臨也くんと僕の声は少し違うって。
津軽は臨也くんの声より僕の声の方が好きって言ってくれたもん。
ヘッドフォンから聞こえてくるのは津軽の歌声。津軽がずっと傍にいてくれるみたいで安心するんだ。
でも、津軽、泣いてないかな。あの真っ白くて何もない部屋で、たった一人。
もしかしたら泣いているかもしれない。だったら早く戻ってあげないと。
そう思って必死に練習して、臨也くんに合格の言葉を貰ってすぐ、僕は部屋に駆け戻った。

「津軽、ただいま、今終わったよ」

白い部屋に響く僕の声。津軽の声が聞こえない。

「津軽?」

見渡す限りの白い空間。その中に、津軽はどこにもいなかった。

「ねぇ、津軽。何処行ったの?かくれんぼ?」

昔一緒にしたかくれんぼ。こんな何もない白い空間でかくれんぼなんて馬鹿げているけれど、あの時の僕達にとっては楽しい思い出になったのだ。
探せど探せど、津軽は見つからない。声も聞こえない。
そうだ。臨也くんなら知ってるかもしれない。だって臨也くんは僕らのマスターなんだから。

「臨也くん、臨也くん、津軽はどこに行ったの?」

「津軽?…ああ、あのシズちゃんにそっくりなヤツね。―…アレなら“ごみばこ”に捨てちゃった」

だって、彼、買った当初から思ってたけど、シズちゃんを見ているみたいでずっと不愉快だったんだ。
嫌そうに呟く臨也くんに、僕は意味が分からなかった。“ごみばこ”って、何?
僕は臨也くんが色々モノを教えてくれるから多少の事は分かるけど、“ごみばこ”って、何?

「ねぇ、臨也くん。“ごみばこ”って、何?津軽はそこに行ったの?」

「さぁ?サイケは知らなくていいと思うよ」

珍しく臨也くんが何も教えてくれなかった。津軽、どうしてそんなところに行ったの?
僕には何も言ってくれなかったじゃないか。ふと思うあの別れ際。
津軽は、もしかして分かってたのかな。だから、僕を引きとめたのかな。
白い白い、真っ白な空間に一人取り残される。
嗚呼。寂しい。寒い。怖い。僕が唄の練習をしている時、津軽もこんな気持ちだったのかな。
ごめんね。ごめんね津軽。こんなに辛くて痛くて寒い思いをさせて。
僕が早く戻って来ないから…。ごめん、ごめんね津軽…。

「寂しいよ、津軽…――」



ふと、津軽の唄が聞こえた気がした。

――――――
リンちゃんとレン君の『サルベージ』と『ごみばこ』の曲を使いたいが故の作品。
私泣ける話書けねぇな…。

取りあえずあと二話続く予定。勿論『サルベージ』と『ごみばこ』から、ですけどね。ふふ。←

というかどうしよう私サイ津今更ハマり出してる…。

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