感情というモノは、実に面倒なモノである。プログラムの中をふわふわと浮かぶサイケはそう思う。
サイケは自分で自分の感情がおかしい事に気付き始めていた。不安定で、どんな感情が突然溢れだしてくるのか分からないのだ。
怒っているはずなのに、笑っていたり。哀しいはずなのに、楽しかったり。嬉しいはずなのに、苦しかったり。
サイケと同じボーカロイドである津軽は、少なからずサイケとは違う構成を持っていた。
津軽はあまり喋らない大人しい性格だけれど、泣いたり怒ったり笑ったり。
感情のプログラムは正常に機能しているようだった。

「サイケっ!」

凛とした声が聞こえる。思わず起き上がれば、着物をパタパタと靡かせて走り寄ってくる津軽の姿があった。
そんな津軽の姿にサイケの口元は思わず緩む。

「どうしたの、津軽?」

「マスターから譜面貰ったから、一緒に練習、しないか?」

「うん、いいよ」

サイケは、自分が津軽の事をどう思っているのか、分からなかった。
理解しようと、考えても考えても分からない事ばかりで。
その事をマスターである臨也に問いただしても、

「それはサイケ自身の問題だから、俺には分からないよ。自分で考えてごらん」

考えても分からないから聴いているのに。
津軽と一緒にいれば、胸の奥が温かくなる。それはとても気持ちが良いものである事は確かなのに。
ソレがどういった感情なのか、サイケには分からなかった。
分からなくて分からなくて、温かい気持ちと共に、黒いモヤモヤとしたものが溢れ出てくる。
そして黒いモヤモヤは決してサイケに良い影響を与えなかった。

「サイケ、サイケっ!今日も歌、一緒に練習しないか?」

なぜならその黒いモヤモヤは、決まって津軽と一緒に居る時に生まれるモノだから。
自分の中で消しても、無くならない黒いモヤモヤ。嗚呼、こんなに、こんなにも苦しいのに。

「…うん、いいよ!津軽、一緒にお歌の練習しよう!」

決めつけては駄目だとサイケは思った。この黒いモヤモヤの原因が津軽なんだと思いこんではダメだと必死に自分に言い聞かせた。
だって、津軽は僕にそんな事しない。いつも一緒に居て、歌を歌って。あんなに、あんなに、楽しかったんだ。
しかし、その黒いモヤモヤは次第にサイケのプログラムを攻撃し始めていった。
苦しくて、痛くて、でも、暖かくて。やはりその黒いモヤモヤは、津軽と一緒に居たり、津軽の事を考える時に出てくるモノだと理解してしまった。
―…理解、してしまったのだ。

(これはきっと、マスターが言ってたバグってやつだ)

バグとは時にはコンピューターを暴走させたり、あるいは停止させたり、誤差を引き起こす悪いウイルスのようなモノだ。
津軽と一緒にいる時に胸の奥に溢れ出てくる黒いモヤモヤ。それはきっとバグなのだ。
サイケは、黒いモヤモヤを津軽を想う感情ではなく、バグ、と、そう処理してしまったのだ。

(津軽は、僕を壊そうとしているんだ)

全然、そんな風には見えなかった。津軽の事、信じてたのに。ずっと一緒に居ようって約束は、嘘だったの?
溢れてくるのは大きな悲しみの渦。酷い、津軽、酷いよ。僕の事、壊そうとしていたなんて。
ポロポロ。大きなサイケの瞳から溢れる涙。

「…サイケっ!?ど、どうしたんだサイケ!」

慌てた声の津軽。心配そうにサイケの顔を覗く。そうやって、僕の事騙してたんでしょ?
伸ばされた津軽の腕をサイケは力強く振り払った。

「嘘付き」

「え…?」

憤怒を含んだ眼で見れば、津軽は怯えたようにサイケを見た。激しい動揺の色。
そうやってビクビクしているのも演技なんでしょう?信じてたのに、津軽の事、信じていたのに。

「サイケ、ごめん。おれ…なんか、したか?したなら、謝る、から…!」

「知らないよ」

そう言い放てば、津軽は青い瞳を潤ませ、綺麗で純粋な涙を流し始めた。
すると、また黒いモヤモヤはサイケのプログラムを襲う。ほら、やっぱり津軽が原因だった。

「津軽なんかもう知らない。僕に関わらないで」

「ゃ…、やだっ、ごめ、ん、ッ!サイケ、ごめんッ!おれ、なんかしたんだろ?だったら、謝るからぁ…!」

嫌いにならないで。
ズキリ、と胸が痛んだ。違う。そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
けど、先に仕掛けたのは津軽でしょう?僕は、悪くなんかないんだから。

「津軽なんか、大嫌い」



どうしても、届かない。

―――――
屮っちゃんの茶会で、らぎちゃんから頂いた夢のサイ津の話。
ごぉおおめんなさいぃいいいッ!!あんな素敵?な哀しい夢の話を私がぐっちゃにしてしまってぇぇええ!!如月様ぁああ!
くそ、私の力不足…!こんな話になってしまって申し訳ないです…!!!
宜しかったららぎちゃん、お持ち帰りしちゃって下さい!返品可能です!
こ、これからも仲良くしてくださいまし!

『Aコース』様よりお題をお借りししました。



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