愛というモノを自覚し始めたのは、もういつからだっただろう。
ある人が愛しくて愛しくて、どうしたらいいか分からない。打ち明けて良いモノなのか。
やはり黙って己の内の中に秘め込んでおくべきなのか。
選んだ道、それは秘め込む事。打ち明けられる訳が無いのだ。
愛しい人。だってそれは、血を別けた自分の兄なのだから。
自覚する度にガタン、と何かが外れる音がする。
それはもしかしたら警告しているのかもしれない。それ以上踏み込むなと。
だがもう止められない。止まらないのだ。
自分でもどうしようもなくて。歯止めが効かない。
こんな思いを持つ事は初めてで。扱いをどうしたら良いのか、分からないのだ。
「兄、…さん、」
「ん…?」
池袋のとある路地裏。薄暗く、日が当らない為か少し肌寒い。
ビルの壁に寄りかかってタバコを吸う金髪のバーテン服を着ている男。
その隣に居るのは真っ黒な髪が特徴的な美青年。
釣り合わないような二人は、何を隠そう血を別けた兄弟であった。
「兄さん…」
ガタン、ガタン。
絆が壊れていく音がする。どうしたらいい?
どうしたら兄弟のままでいられるの?壊したくない。
たった一つの兄弟の絆。無くしたくない。けれど、己が欲しいモノはその兄弟の絆を壊さなければならない。
どうしたらいいんだ。考えても考えても、何も浮かばない。
「幽?どうした?」
「……………」
言えない。言えるわけがない。言えないという事がこんなにも苦しい事だとは思わなかった。
吐き出したい。楽になりたい。だけど、言えば全てが崩れ落ちる。
今まで築いてきたものが全て無くなってしまう。それだけは、それだけは駄目だ。
ポン、と頭の大きな手のひらが乗りそのままくしゃくしゃと頭を撫で回される。
「何か悩み事があるなら、俺に言えよ?聞く事ぐらいはできっから」
「…うん…」
悩み事で済まされるならどれだけ良かったか。息苦しさがまた増す。
曇り一つない綺麗な兄の言葉が心臓に突き刺さる。こんな弟でごめん。
言いたい。けど、言えない。言ったら、きっと何もかもが無くなる。
だけど、苦しいんだ。必死に自分の中に詰め込むけれど、こんなちっぽけな躯の中に全部は入りきらない。
少しだけ、楽になってもいいかな。大丈夫、きっと気付かれない。
どこかそんな自信があった。気付かれないというのも嫌だけど。今だけは。お願いだから気付かないで。
「俺、兄さんが好きだよ」
ガタン。
そしてまた一つ踏み外す
(俺もお前の事が好きだよ)
(そう還って来た兄の言葉が深く俺自身に突き刺さった)
――――――
これ、最初は幽静だったけど読み返したら静幽な気がしてきたから静幽に変えた。
そして両思いが書きたい…。
最近『兄さん』じゃなくて『兄貴』呼びでも良いような気がしてきたぞ。
『最果てを棄てに』様よりお題をお借りしました。