*幽静(幽)…的な感じ

OK?↓


誰よりも強くて格好良くて、尊敬出来る兄。
理解できる表情と言えばいつも怒っているか、笑っているか。
分かる範囲ではそれぐらいであった。表情が無い時なんて見た事がない。
もう一つ、見た事がないと言えば、泣き顔。兄貴が泣いた処なんて見た事が無い。
俺に見せようとしていないのかもしれないけれど。一度でいいから見てみたいと思っていた。

久々の仕事がない休日。たまの休みだ。ゆっくりしようと考えていた処に携帯が鳴る。
もしかして仕事関係の事だろうか、と余り期待はしていなかったのだが、
画面を見るとそこには兄の名前。少し驚いて電話に出ると聞こえてきたのはか細い声。
いつものあの元気の良い声ではない。ただ、尋常じゃない兄の声に少なからず俺は興奮していた。
一番近くに居て、一度も聞いた事がない音。
今から会えるか、と問われ俺は迷わず会いに行くと答えた。

家、と言うより兄貴の部屋は俺の部屋と違って狭い。
少しくらいならお金貸して上げられるのに、って言った事もあるけど。
自分の事は自分でやる、って聞かなかったから。
部屋に入ると、後から抱きつかれた。玄関のドアを開けた時から思ってたけど、
今日の兄貴は何か変だ。普段ならこんな事しないのに。
どうしたの、って聞いても何も答えてくれない。何か言ってくれなきゃ困るよ。
俺はエスパーじゃないんだから。でも、兄貴の事なら何でも分かりたいっていうのは本心だけどね。

「かすか、…幽、」

「どうしたの」

背中越しでも分かる。小さく震える身体。見た事ない。聞いた事のない声。
普段と違って弱々しい音。身体がゾクゾクと歓喜に震える。
何だ、これ。もっとちゃんと声を聞こうと身体を兄貴の方へ向けた。
だけど、それは失敗に終わった。いや、結果的には良かったのかも。
俺は今仰向けで、目の前には眉間にシワを寄せた兄貴の顔。見た事のない顔が目の前にある。
不意に、もっと見てみたいと思った。

「………怖いんだ」

「…え…?」

「…いつか、俺のこの力で誰かを殺しちまうんじゃねぇかって思うと、凄く、…怖い」

「………」

今にも泣きだしそうな顔で言う兄貴。いっその事泣いてくれればいいのに。
俺に縋って泣き叫べばいいのに。俺なら、受け止めてあげられるのにな。
なんで急にそんな事思い始めたんだろう。どうせあのオリハライザヤって人が何か吹き込んだな。
余計な事しないで欲しいよ、まったく。ああ、でも俺が見た事のない兄貴の表情が見れたから良しとするか。

「大丈夫だよ」

「え…」

「俺は兄貴の味方だよ。一人で何でも考えないで。兄弟でしょ、俺達」

誰よりも強くて格好良くて、誰よりも弱くて脆い。そんな兄を支えてやれるのは俺しかいない。
俺以外は認めない。誰にも兄貴の事は理解できない。俺だけが、俺だけが兄貴を理解出来ていればいい。
譲らないよ、誰にも。

「かすか、かすか…ッ」

グスグス、と俺の肩に顔を埋めて泣きじゃくる兄貴。昔と違って、金髪に染め上げてしまった髪がくすぐったい。
俺が知らなかっただけで、もしかしたら兄貴は幼い頃からずっと自分の中に痛みを隠し持っていたのかもしれない。
それに気付いてやれなかったなんて。俺は弟失格かな。
でも大丈夫。俺は兄貴の事怖がったりしないよ。兄貴に殺されたって良い。
それぐらい兄貴が大好きなんだよ。だから早く俺の処へ堕ちて来て。
俺は裏切らないし、怖がらないし、愛してあげるし、殺されたっていい。こっちへおいで、おいで。
来ないのなら、此方から追い込みに行くよ。さぁ!



背を向けて此方に気付かないキングは、もう目の前だ。

――――――
幽静(幽)みたいな…?
静幽ってどういうふうに書けばいいんだ…!
幽は策士な感じっぽいよね、っていう話。

一応続く。

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