中学の頃はよく影で悪口を言われているのを聞いた。平和島幽は表情は変えずとも、少なからず落ち込んでいた。
兄が喧嘩人形なら、弟は機械人形だ、と。自分は何を言われてもいいが、兄の悪口だけは止めて欲しい。
兄である平和島静雄は少し怒りっぽいだけであって、普段は普通の男だ。
自分の頼れる兄であって、決して悪人ではない。悪人顔ではあるが。
幽はそんな静雄が大好きだ。幼い頃から、ずっと。怖いなどと思った事は一度もない。

時々、静雄に喧嘩を売って、ボコボコに殴られた男達が憂さ晴らしに自分に罵声を浴びせる事もある。
それはどうでもいい。大した事を言っていないから。だけど、暴力を振るわれそうになるのは勘弁してもらいたいものだ。
今日も放課後、校舎の裏に呼び出された。自分の周りには数人の男達。
ああ、面倒な事になったなと幽は他人事のように思う。殴られたら痛いだろうか。

(まぁ…どうでもいいか)

どうせすぐ終わる。一人の男が何か言っているが、耳に入って来ない。
無。今の幽にはその表現が合っていた。何も反応を出さない幽に男は、怒りに身を任せ幽目掛けて拳を振りげた。
いや、正確には振り上げたが正しい。幽はただただ目の前の出来ごとに驚くばかり。
自分と男の間には、フェンスが突き刺さっていた。フェンスは無理矢理引き抜かれたような、不自然にグニャリと曲がりくねっている。
こんな事を出来るのは幽の知っている人物で一人しかいない。

「お前らよォ…誰の弟に喧嘩売ってんのか分かってんのか?あァ?」

青筋を立てた、自分の兄が立っていた。どうやら怒りで我を忘れている。

「俺よぉ…喧嘩を売られるのはいいんだ。それはまだいい。だが、俺じゃなく幽に喧嘩を売るのは間違ってると思うんだよ」

静雄は自身の近くに生えていた樹を、掴んで持ち上げた。土がパラパラと落ちる。
樹はまるで風船のように静雄に持ち上げられた。きっと樹に意志があったらとても驚いているだろう。
静雄はその樹を男達目掛けて投げつけると、すかさず幽へと駆け寄った。

「大丈夫か、幽?怪我とか、してないか?」

「平気」

「ちょっと待ってろよ。アイツらぶん殴ってきてやるからな」

「ううん、俺は大丈夫だから。もういいよ」

本当に、心のそこからどうでも良かった。今、幽は先程までの事を全て忘れた。
兄が来てくれた。ただそれだけが、嬉しかった。

「兄さん、ありがとう」

「困った事があれば俺に言えよ?何でもしてやるからな」

「うん」

人より、少し力が強いだけ。他は何も変わらない。似てない兄弟だと言われるけど、それでもいい。
寧ろそれでいい。
今の今までポカンと呆気にとられていた男達は静雄を眼が合うと蜘蛛の子を散らすように逃げだした。

「兄さん、もう帰ろう?」

「そうだな。…今度幽に手ぇ出しやがったらアイツら絶対殺す」

自分の為にこんなにも怒ってくれる静雄が、幽は嬉しかった。
この胸の中に渦巻く、暖かくも重い感情が愛だという事を幽が気付くのはあともう少し。



(そう言えば、兄さん、冷蔵庫の中もう何もなかったよ)
(マジかよ。じゃあ商店街に寄ってから家帰るか)
(うん。夕飯は鍋がいい。豆乳鍋)
(幽、昨日も豆乳鍋だったろうが。今日はキムチ鍋だ)

―――――
結局鍋か。ってそうじゃない。
商店街に行ったあと幽はスカウトされるというなんかよく分からない裏設定。
短いな…。むぅ。難しい。

イカン、幽静好きだ。

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