ファーストキスは、好きな人とって決めてた。俳優になったらそんなの関係ないんだけど。
やっぱり好きな人としたい。俺の好きな人は、俺の兄。
今は池袋の喧嘩人形とか言われてる人。俺と違って感情に忠実。
逆に俺は感情を表さないから、兄さんを羨ましいと思う事もあれば、そうは思わない時もある。
俺は兄さんとずっと一緒にいたからそれを半面教師にしてきたせいもあるのだけれど。

今日は池袋での収録の日らしく、車で連れて行かれた。
ドラマの撮影で、何でも今回はあの街中でキスシーンをやるのだとか。
正直、嫌だった。なんで好きでもない女とキスをしなければならないのか。
どうせなら、最初のキスは、好きな人とが、いい。そんな事を思い、周りを見渡した。
撮影現場には野次馬が沢山。俺と眼が合うと黄色い声が上がる。
そこの少し後ろに、見なれた顔があった。背が人一倍高くて、金髪で。
バーテンの服を着て青みが掛ったサングラスをしている、俺の兄だ。
自然と顔が綻ぶ。ああ、そうだ。ちょうどいい。
人混みを掻き分けて兄さんの元へ駆ける。兄さんも俺に気付いたのか、眼を丸くした。
声を掛けられる前に俺は兄さんの身体に抱きつく。
俺より一回り大きい身体が、好き。

「幽…?どうしたんだ?」

「…撮影で池袋まできたから…兄さんに会えるかなって」

そう言って兄さんに笑いかけたら、周りからまた黄色い声が上がった。
そうそう。こんな事をしてる場合じゃなかった。これから撮影なんだから、スタッフさんに迷惑かけちゃ駄目だよね。

「兄さん」

「あ?…んむッ!?」

兄さんの顔を両手で引き寄せて、キスをした。それも深いやつを。
ディープキス、ってやつだっけ。なんだか少し苦い味がする。タバコばっかり吸ってるからかな。
これからは少し控えて貰わないと困る。タバコって身体に悪いんだからさ。
兄さんの苦しそうな声が時折聞こえる。俺ってこんなにキス上手かったんだ。これからの撮影で役に立つかな。

「ぁ、んぐッ、…んんーッ!!」

ドンドンと兄さんが苦しいと俺の身体を叩いて訴える。すっかり夢中で息をするのを忘れてた。
口を話すと、兄さんがよろよろと後へ下がった。顔は真っ赤で、少し涙眼だ。
なんだろう。何で俺、今兄さんを可愛いとか思ったんだろう。
分からないや。

「は、…幽ッ、お前いきなりなにすんだッ」

「俺のファーストキス。兄さんにあげたから。ありがとう兄さん」

「は?…あー…そりゃ、…良かったな…、??」

結局兄さんは何をされたのか分かってなかったみたいだけど。
それでもいいよ。俺は満足だから。兄さんのファーストキスは多分あの折原臨也って人だと思う。
それはちょっと残念だけど、仕方ないか。俺は兄さんと過ごす時間が少ないんだ。
でも、負けないから。

「じゃあ、戻るね。…兄さん、またね」

「あー…、おう。またな幽。頑張れよ」

「うん」

呆気らかんとする人達をまた掻き分けて現場へと戻った。
今度は兄さんにはバーテン服じゃなくて飴を贈ってあげよう。
そうしたら今度キスする時、甘い味になってると嬉しいな。



(静雄、どうしたんだ?)
(あ、トムさん。なんかよく分かんねぇんですけど、幽のやつにキスされました)
(……、……、……はぁッ!?)

―――――
臨→静←幽、とかだったらいい。とかそういう妄想。
シズちゃんのファーストキスは臨也さんに奪われた後でした。それがくやしい幽。
とかそんなんだったらいいなぁ、という妄想。

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