虎徹がアライグマになってちょうど一ヶ月。
漸く進展があった。司法局とバーナビーが調べた結果。
虎徹が受けたNEXT能力はちょうど一ヶ月で元に戻るらしい。
今更分かったところで、今日がその虎徹が能力を受けてから一ヶ月だ。
本来ならばそれはとても嬉しい事のはずなのに、ライアンは気持ちが沈んでいた。

「…アンタ、もう元に戻っちまうんだな」

ベッドの上で大人しく丸まって寝ているアライグマの姿の虎徹にポツリと呟く。
夜、二人きりで会話をする事も無くなってしまう。あの数時間だけが何よりの楽しみになっていたのに。
今日は非番の日。ライアンは一日中自宅に居た。
いつもならば外へ出かけて買い物をしたり、女性に声をかけて一緒に食事でもしていたのだが。
そんな気分にはなれなかった。

「…こんなの、いつもの俺様じゃねェっつーのに」

はぁ、と溜息が出る。彼が人間の姿に元に戻ったとして、どうアプローチをしよう。
食事に誘う?デートに誘ってみる?相手が男なものだから、どうしたらいいのか分からない。
何をすれば喜ぶのか、何をあげれば笑ってくれるのか。
出会って日が浅いライアンにはそれが分からなかった。

(こういう時、ジュニアくんの事がマジで妬ましく思っちまう…)

あああ、と頭を抱えてベッドにダイブする。ライアンがベッドに飛び込んだ衝撃で寝ていた虎徹は飛び起きた。
何事だ、とキョロキョロ辺りを見渡す虎徹にライアンはケラケラと笑う。
この姿を見れるのも今日が最後。なら思う存分堪能してやろう。

「あー、触り心地は本当ヌイグルミみてェだな〜」

「ピー、ピーっ!」

「…今度アライグマのヌイグルミでも買ってみるか…」

ワサワサと虎徹を抱きしめながらライアンは真剣に考える。
本物のアライグマだとまた次の街へ流離う時に移動が大変だ。
ヌイグルミならば、部屋に置いて置けばいい。そうだ、とライアンは虎徹を離しリビングへ向かう。
キョトンとしていると、ライアンは何やら手に持って戻ってきた。
ニヤリとライアンが笑うと、カシャッと彼が手に持っていた物から音が聞こえた。

「んん〜、今の表情良かったぜ?」

ライアンが手にしていたのはカメラだった。虎徹がアライグマの姿になってしまってからすっかりカメラの存在を忘れていた。
趣味であるカメラを片手にライアンはまた虎徹を弄り始める。

「アンタが元の姿に戻ったら、見せてやるからな」

きっとアライグマの姿をしていた自分を見て驚くに違いない。
それを想像してクスリと笑う。
カシャ、と今度は自分と虎徹を撮る。それを見ていたイグアナのモリィも、自分もと言わんばかりにノソノソとライアンの身体をよじ登る。

「よしよし、お前も写りたいんだな?じゃ、記念っつー事で」

カシャ、とまた音が鳴る。カメラを見てフッと笑う。これでまた思い出が出来た。
虎徹を見れば、興味深そうにライアンが手にしているカメラをジッと見つめている。
もっと撮って欲しいのだろうか。クシャクシャと虎徹の頭を撫でる。
そこでふと思う。おとぎ話である、動物の姿に変えられた王子様は愛する者のキスで元の姿に戻ったりする話があるが。
虎徹も、もしかして戻ったりするのだろうか?

「…いやいや、んなワケ…」

NEXT能力で動物の姿にはなってしまったが、時間経過で元の姿には戻るのだ。
わざわざキスで元の姿になるなんて、そんな馬鹿な話があるだろうか。
しかし試してみる価値はある。キスをして元の姿に戻らなくても、今日の日付が変わる瞬間に彼は元の姿に戻るのだ。
虎徹を持ち上げ、冗談半分でキスをしてみた。ほんの触れるだけのキス。

「…ははは、ほらな、やっぱり、」

元に戻るワケがない、とライアンの言葉は続かなかった。
ボフンッと音を立てて目の前に居たアライグマが、全裸の男に変わったのだ。
目を丸くするライアンに、何が起こったのか理解出来ていない元の姿に戻った虎徹。

「………は?」

「えっ、あれ、ライアン!?今ってもう夜中なのかっ!?」

ワタワタとする虎徹に対してライアンは頭の中がこんがらがっていた。
どういう事だ?どうして元に戻ったんだ?もしかして、

(…キス……?)

そう思いそっと自分の唇を触る。
虎徹は何がどうなったのか分からずオロオロとし、シーツで必死に自分の身体を隠していた。
そんな虎徹をジッと見つめる。今はまだ昼間だ。
だったらなぜ元の姿に?分からない事だらけだ。
でも、元に戻ったのなら、それでいいか。ライアンはそう思い虎徹に向かってニコリと笑った。

「オッサン、多分もうあのアライグマの姿にはならないと思うぜ」

「えっ…」

「能力が切れたんだよ。オッサンが受けた能力、一ヶ月間だけのものらしいんだってよ」

ライアンがそう言えば虎徹は目を輝かせ、力強くライアンの手を握りブンブンと上下に振り回した。

「うわぁ〜!マジか!ありがとうな、ライアン!!」

「お、おお……」

「これでもう一々全裸にならなくて済むんだな!それにやっとヒーローも出来る!!」

キャッキャと子供のようにはしゃぐ虎徹に、ライアンも見ていて嬉しくなる。
しかしそれと同時に、少しだけ悲しくなる。元の姿に戻ってしまったという事は、もうこの家に彼は来ない。

「…良かったな、オッサン」

それでも、ライアンは嬉しそうに笑う虎徹に自分も笑ってみせた。
悲しい表情は彼には見せられない。

「…もう、アンタがココに来る事はなくなるんだな」

ボソリと呟いた。聞こえない程度で言ったつもりだったのだが、聞こえたのか虎徹がこちらを振り返る。

「なんで?」

そう返された。今度はライアンがポカンとする。

「や、だって…アンタ元の姿に戻ったんだぞ?俺様の家に来る理由もねェだろうが」

「は?普通に遊びに来ちゃ悪いのかよ?」

それとも…、と虎徹は口ごもる。シーツを抱えてモジモジとしている。
本当に四十になろうというオジサンなのだろうか。恥じらう姿はまるで乙女だ。
ライアンが首をかしげていると虎徹は意を決したのか掴んでいるシーツを更に強く握った。

「こ、…こぃ、恋、人、同士っじゃなきゃ…ダメ、なのか…?」

小さく呟かれた言の葉は、それでもライアンの心に矢を打ち込んだ。
その言葉にライアンは頭を抱える。どんでもない爆弾を落としてきやがった!
ドキドキとする心臓を押さえ、真っ赤になった顔を隠すようにその場に蹲った。
その姿を心配した虎徹はライアンに大丈夫か、と問いかける。
ああ、全然大丈夫なんかじゃない。

「…本当、とんでもねェよ。もっと好きになっちまったじゃねェか」

「えっ、えぇ!?」

何で!?と驚く虎徹に、ライアンは声をあげて笑う。
本当に、この男はとんでもない男だ。

(この俺様がこんなにも夢中になっちまったんだから)

シーツを絡めオロオロとしている虎徹。そんな格好をしていると、襲ってしまうかもしれないぞ。
何せこちらは百獣の王のライオンなのだから。

(でも、この場合は狼か?)

そう思い、そっと笑った。



食べて欲しいなら、お望み通り骨まで食べてあげるよ?

―――――――
全5題、これで終わりです。
あれ、くっついてない、ぞ…?(・・;)
くっつきそうでくっつかないもどかしい関係が獅子虎。
虎が受けた能力の解除は一ヶ月でも元には戻るが、想いが通じ合っている者同士のキスでも戻るというややこしい解除方法もあったという。
そんなご都合NEXT能力でした\(^o^)/
その後の獅子虎がくっついた後の兎視点も一応考えているのですが、
兎が報われない感じが凄いのでそれでも読みたいなという方がいればコメントください。

読んでくださってありがとうございました!!


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