朝、目が覚めて真っ先に思い浮かんだのは大好きな彼の事。
昨日はワクワクして寝れなかった。
楽しみすぎてずっと目が覚めていた。
子供じゃないんだから、どうかしていると思うだろう。
けど、仕方なかった。いつもより気合を入れて身支度をする。
鏡を見て、今日の顔色をチェック。少し頬が赤いがそれはきっと彼のせい。
髪型もしっかり整えて、ペットに行ってきますのキスを贈る。

「じゃ、行ってくるぜ」

雨など振りそうもない晴天の空を見上げ、ライアンは陽気な足取りで自宅を出た。


今日は思い切っていつもより控えめで、けれどどこか派手な自分らしからぬ格好をしてみた。
彼にどうしたの?と聞かれたかったから。
どうだろう。彼は気付いてくれるだろうか。
ワクワクしながら待ち合わせ場所へ向かう。

(今日の俺様は一味違うんだからな!)

目に物みせてやる、とお気に入りのサングラスをかけて駆け足で歩く。
ああ、彼の事を想像するだけて溶けてしまいそう。
彼に自分の好意を伝えた事はない。絶対に言えるわけがないのだから。
もしかしたら今日は目も合わせられないかもしれない。
心臓が止まってしまうのではないかと思うぐらい胸がドキドキする。
恋に憧れていた時期もあった。自分はきっと本気の恋なんて出来ないから、と恋に恋をした事もあった。
でももう、恋に恋なんてしない。

「…だって、本気で好きになっちまったんだからさ」

待ち合わせ場所に向かうと、彼はもう既に待っていた。
普段と変わらぬ格好で、コチラに気づくとニコリと笑った。
あの笑顔が自分だけに向けられているんだと思うと幸せで息が苦しくなる。

「ジュニアくーん、待った?」

「いえ、僕も今来た所なので」

限られた男性しか許されないような台詞をバーナビーはサラリと言う。
しかし、ついさっき来たようには思えなかった。
そんな気遣いにも嬉しくなりながら、彼と歩き出す。
これはデート、というかただの買い物だ。
デートがしたいなどと誘えるわけもなく、買い物に付き合って欲しいと彼に相談したら、バーナビーは快く引き受けてくれた。
バーナビーにとってはライアンの買い物に付き合っているだけなのだが、ライアンの心境はそんな軽いモノではなかった。
彼が自分の隣にいて、喋っている。それだけで心が弾む。ああ、なんて幸せな。


買い物をし、少し高めのレストランで食事を取り、次はどうしようか、と二人で話ながら外へ出ると。
外は土砂降りの雨。ああ、なんてこった。
天気予報では雨が降るなんて言っていなかった。
先程までの青空はなんだったのか。でも、このままバーナビーと二人で雨宿りもいいな、と考えていると隣に居たバーナビーは突然。

「傘、買ってきますね」

「へ?え、ちょ、おいジュニアくん…!」

そんな物買わなくてもいいのに。ライアンの静止を求める声は既に雨の中駆け出したバーナビーには届かなかった。
このまま雨宿りをし、二人だけでいれば良かったのに。
止むことのなさそうな雨。まるで自分の心のようだとライアンは地面に目を伏せる。
今この場で泣く事が出来ない自分の変わりに空が泣いているのかもしれない。
暫くして、バーナビーが戻ってきた。
彼が持っている傘に目をやり、溜息を吐いた。ああ、全然嬉しくない。
そんな物、いらなかったはずなのに。そんな時。

「ほら、一緒に入りましょう?」

そう笑ってバーナビーはライアンに少し小さめの傘を差し出す。
一瞬何を言われているのか分からなくて気付かなかった。数秒して、ボッと顔が熱くなる。
相合傘をしようと言われたのだ。こんなガタイの良い男がいるのに傘を一本しか買ってこないとはどういう事だ。
そう思ったが、それでもライアンは恥ずかしそうに頷いた。
良かった、とそう隣にいるバーナビーがニコリと綺麗な顔で笑う。ああ、改めて彼に恋をした瞬間だった。

「少し、雨止んできましたね」

「っそ、そう、だな…」

息が詰まりそうだ。呼吸が出来なくて言葉を出すのが辛い。
バーナビーの隣に寄り添いライアンは歩く。小さい傘だから肩が少し濡れる。
しかしそれを冷たいと思うよりも、隣にいるバーナビーが気になって仕方がない。
こんなに間近に好きな人がいる。この心臓の音が聞こえていないだろうか。

「そんなに離れたら濡れますよ」

「えっ、ぁ、…」

グッと引き寄せられて、彼の左手に自分の右手が触れる。
触れた箇所から彼の熱が伝わってくる。ああ、どうしよう手が震えてしまう。
恥ずかしさと嬉しさで高鳴る胸。半分この傘。
手を伸ばせば届く距離に彼はいる。どうしよう。どうしよう、どうしよう。
このまま触れた所から彼にこの想いが届けばいいのに。

「あ、ライアン、この後はどうするつもりなんですか?」

「へ?この後…?え、っと…」

雨が降るなんて聞いていなかったから、いろいろやりたい事があったのに。
今頭の中は真っ白だ。
ただ一つ願うなら時間を止めて欲しい。このままさようならなんてしたくない。

(くそ、泣いちまいそうだ…)

こんな事で泣くなんて今までありえなかった。だから必死で泣くのを堪える。
でも、この雨のおかげで彼のこんなにも近くいる事が出来た。
嗚呼、嬉しくて死んでしまいそうだ!
それだけはこの雨に感謝をしたい。

「駅が見えてきましたね。どうしますか?」

駅。今はまだこのシュテルンビルトに滞在しているけれど、暫くしたらこの街からも自分は旅立つのだろう。
そう思うとキュウ、と胸が締め付けられる。
こんなにも彼は近くにいるのに、なんて遠い存在なんだろう。
別れの時はこの駅でさようならをしなくれはならない。
まだ、一緒にいたい。バイバイなんて、したくないんだ。
それならいっそ、抱きしめてくれ!と言ってしまいたい。

(…なんて、な)

そんな事を言ってしまえば彼を困らせるだけ。ああ、どうしたものかと考える。
雨も小ぶりになった頃、駅にたどり着く。
水滴を払い傘を畳むバーナビーは、良かったら、とライアンに声を掛ける。

「良かったらこの後、僕の家に行きませんか?」

「え、マジ…?」

「はい。服も濡れてしまいましたし。少し食事でもしながら」

最近料理の楽しさに目覚めたらしく、誰かに自分の作った料理を食べてもらいたい、とバーナビーは付け足すように言う。

(じゅ、ジュニアくんの…手料理…)

その誘いにライアンは真っ赤な顔で大きく頷いた。それでは、とバーナビーは手を差し出す。
キョトンとするライアンに、バーナビーは困ったように笑う。

「嫌ですか?」

「いっ、嫌じゃねェ!」

「それは良かった」

差し出された手を握り、ライアンとバーナビーは雨が止みカラリと晴れた空の下を歩き出す。
ライアンは恥ずかしそうに笑い、バーナビーの手をギュッと握り返した。



君はこのままボクの心をドロドロに溶かしてしまうのかな

―――――――
初兎獅子(´∀`*)
短い…。
電車内で初音ミクちゃんの『メルト』を聴いていてこれ兎獅子じゃね…?と思ったので勢いで書いてみました。
アンケでも私の書く兎獅子が見たいとコメントしてくださった方、ありがとうございます!
ちなみに兎はこれ確信犯です。




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