会社から所謂解雇宣言をされてしまい、虎徹は途方に暮れていた。
やっと二人で出来ると思ったヒーロー。
一人では多少心細くもあったけれど、クリスマスの日、戻って来てくれた彼。
本当に本当に、嬉しかったんだ。また二人でヒーロー出来るな、とロッカーで笑いあった。
二部でも多少不便は感じたがヒーローを続けられるのであれば二部でも良かった。
そんな時、新しいオーナーからの一部昇格の知らせ。
能力が残り一分になってしまった自分とまだまだ現役の相棒。
こんな自分でも今まで輝いていた一部へ上がれるのかと嬉しかった。
しかし、それは相棒だけだった。衰えた人間は必要無い。そう言われてしまった。
それは今までもヒシヒシと感じていた。だがこうも真正面から言われてしまえば何も言い返せない。
彼は一部で、自分は二部。それでもいい。格好良く活躍している相棒を見つめるだけでも良かった。
それすらも叶わなってしまった。
バーナビーは当然のように怒った。オーナーに対してもだが、簡単に諦めてしまった虎徹に対しても怒ったのだ。

この想いを彼にどう伝えよう。電話で伝えようも、なんて言ったらいいのか分からない。
メールにしようか、とも思った。しかしそれでは冷たい文章だと思われてしまうかもしれない。
それなら、と手紙を書く事にした。

「…なんて書くか……」

『拝啓、まだ頼りない君へ。急にお前を一人にさせちまう事、本当に悪いと思う』

ああ、泣き虫な彼の事を思うと胸が張り裂けそうだ。

『だけど、お前はお前が思っている程、ずっとずっと強いんだ。
だから、俺がいなくても大丈夫だろう?』

知っている。君は強いんだ。だから隣に自分が居なくなっても生きていけるだろう?
独り立ちをする息子を応援している親のようだと虎徹は書いていて思う。
だけど、もしかして彼は自分を探して泣いてしまうかもしれない。
大丈夫だよ、と側に近寄って慰めてあげたい。
だけどそれは出来ない。彼と自分とではもう立っている位置が違うんだ。
だからごめんなと笑って嘘を吐く。

『きっと俺はもうお前の隣に立つ事は出来ない。
お前の家に行く事も出来なくなるだろう。
だから、お前の家にある俺の物は片付けてくれていいから』

新しい相棒と仲良くしてくれればいい。
もしかして自分との思い出が重りになって彼の歩む足を止めてしまうかもしれない。
けど、お前は歩かなくちゃいけない。
悲しくても両親の死を受け入れ、復讐を誓ったそんな自分をちゃんと受け入れて前に進めたんだ。
いつかそれは全部時が経てば思い出という過去になる。
だから自分との思い出も過去にして、前に向かって歩くんだ。
このまま年を重ねてもっと大人になっても君が変わる事はないと信じている。
だけど、もしかしたら知ってしまうかもしれない。
この街からいなくなってしまう自分を探して泣いてしまうかもしれない。

「…アイツ、本当…泣き虫だもんな」

でも、もう行かなくちゃいけない。
この街でヒーローを続けるのはもう難しいかもしれないから、別の街でヒーローが出来るかも知れないんだ。
ヒーローとして輝いている彼がこの街で見れなくなってしまうのは残念だけれど、けど君もきっと許してくれるはず。
いつか彼がもっと大人になって今日の事を許せる日がきたら、思い出して、考えが幼稚だった自分の事を笑って欲しい。
でも、もしかしたら彼は泣いてしまうかもしれない。

「ああ、いっその事俺を恨んでくれればいいのに」

そうしたら彼は泣かなくて済むかも知れない。勝手にいなくなってしまった自分を恨んでくれればいい。
だから君はそのまま前へ歩んで欲しい。それが俺の願いだから。

「封筒、封筒っと…」

寂しくなるけど、仕方がない。
家にあった少し古い切手を貼り、そのまま家を出てポストへ手紙を突っ込んだ。



ジャスティスデーの件が片付いて暫くしてバーナビーが虎徹を自宅へ招いた。
まだこの街でヒーローが続けられるんだという喜びと市民にこんなにも愛されていたんだという幸せ感から虎徹は浮かれていた。

「虎徹さん、これ」

「ん?なんだ?」

バーナビーがそういい差し出したのは一通の手紙。少し寄れた古い切手に見覚えがある。
そう言えばあの事件の前に彼宛に手紙を出したんだっけ。

「どういう事なんですか、これ」

「いやぁ〜…それは、その…」

「僕は認めませんよ、そんなの」

「バニー」

ビリビリとバーナビーは手紙を破る。その様子をなんとも複雑な心境で虎徹は見ていた。

「僕の隣は貴方しかいないんです。これからも、ずっと」

「…でも、よ……」

「まだ認めないんですか?困った人だな…」

はぁ、とバーナビーは溜息を吐くと、虎徹の腰に手を当て引き寄せた。

「なんなら、身体に教えてあげましょうか?」

「えっ、遠慮します!!」

慌ててバーナビーから身を引き離すと安堵の溜息を吐く。
ああ、こんな事なら手紙なんて書くんじゃなかった。
手紙程度で諦める彼ではないんだから。

「僕は貴方が居ないと息が出来ない。貴方が居ないと死んでしまう。だから僕の隣は虎徹さん、貴方でないと駄目なんです」

ああ、本当に彼には敵わないなと思う。



僕らは二人で前に進むんだ

――――――
『T/i/a』さんの『ちょ/っ/と/出/か/け/て/き/ま/す』
という曲を聞いて妄想した話。
曲自体は解雇言い渡された辺りの虎さんの心境みたいで虎→兎っぽいなぁと思ったので。
でも救いが欲しいなと思ったので最後の方は私の独断で筆記してみました^^
気になる方は是非曲を聞いてみてください!





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