非常にマズイ事になった。バーナビーは今とんでもない状況下に置かれていた。

「へー、そんな苦労して…大変だなぁ“お嬢ちゃん”も」

うんうん、と頷いている虎徹。お嬢ちゃん、と呼ばれたバーナビーは小さく愛想笑いをするしかなかった。
バーナビーが今女性の格好をしているのには訳がある。
数時間前、ロイズから呼び出しがありその帰り道アニエスに会ったのだ。
しかしそれが運の尽き。目を輝かせたと思ったら急にこの格好をしろと言われたのだ。

「あの、アニエスさん?これはどういう…」

「いいから!急遽来れなくなったアイドルがいるんだけど、それの代わりを貴方にやって欲しいの!」

「だからってなんで僕が…」

「ちょうどいい所に貴方がいたのが悪いわ。そのアイドル、タイガーと対談をする予定だったの。この企画は私が考えたものだから失敗はしたくないし、それに貴方元がイイんだから女装したって美人になるわよ。多分」

断ろうにもアニエスの凄まじい剣幕に押され、そのまま衣装を渡されメイクもされ、今現在に至る。
確かに一目でこの女性がバーナビーだと気付く人はいないだろう。現に虎徹も全く気付いていない。
虎徹とアイドルの対談、と言ってもラジオ番組なので二人の姿はリスナーには分からない。

「なぁ、お嬢ちゃんは好きな人とか…いないのか?」

虎徹の突然の質問に、バーナビーは動揺した。
好きな人はいる。それも目の前に、だ。正体がバレないようにとアイパッチをしている虎徹。
クリクリとした琥珀色の瞳で見つめられ、バーナビーはどうしようかと悩む。
自分は男で、でも男性である虎徹が好きなのだ。こんな事を言ってしまって、虎徹に嫌われてしまったらどうしよう。
彼は一度結婚している既婚者なのだ。漸く仲良くなってきたというのに、こんな所で嫌われたくはない。
だがしかし、今バーナビーは男性ではなく、女性としてこの場にいるのだ。
恋愛相談をする意気込みで気持ちを割り切ってみよう。それならこのどうしようもない不安を紛らわせることが出来るかも知れない。

「やっぱアイドルって恋愛禁止ってルールとかあるから好きな人を作るとか無理だったりするのか?」

「す、好きな人は…います」

「えっ、お?マジで?どんな人なんだ?俺でよかったら話聞くぜ?」

身を乗り出して相談に乗ろうとしてくれる虎徹に、バーナビーは心底彼が好きだと改めて思う。
こういう誰にでも優しい所が彼のイイ所なのだ。
お節介ではあるかもしれないけれど、それは彼なりの優しさだと気付いたのはつい最近だ。

「年上の方なんです。ぼ、…私よりも一回り。その、年の差ってどう思われますか?」

「恋愛に年の差は関係無いって。誰を好きになるのかなんて分からないもんだし」

「それにその人、ガサツで凄くお節介で自分の事は後回しで他人の事ばっかり気にする人なんです」

「うんうん」

「でも…自分の仕事に誇りを持ってて、そういう所が凄くカッコイイなって思う時もあるんです」

そういう所は本当に惹かれる。この人の事を本気で好きだな、と思う瞬間でもある。
けど、この恋が叶わない事をすでに知ってしまっているからか、あともう一歩が踏み出せない。
このままの関係で居たい自分もいるし、この関係のままじゃ嫌だと思う自分もいる。

「本当にその人の事、好きなんだな」

「はい」

虎徹は優しい瞳でバーナビーを見つめる。まるで親のようだ。

「…俺の仕事の相棒のバニ、じゃない…バーナビーもさ、仕事ばっかりで、恋人とか作らねーのかなぁって心配になる時があってさ」

自分の名前が出され、ビクリとなるも虎徹は目の前にいる女性がバーナビーだとは気付いていないはずだ。
バーナビーはドキドキとする胸を必死に抑える。

「か、彼は彼で好きな人、いるみたいですよ」

「…え?マジ?そんな事アイツ一度も俺に相談してきた事無いんだけどな…」

「叶わない恋だって分かっているからです。もう諦めているから、相談なんてしても意味がないって」

彼に出会ってこの想いに気付いた瞬間からこの恋は終わっていたのだ。
どうしてよりによってこの人だったのだろう。この人でなければこんなに苦しい想いなんてしなくて済んだのに。

「そんなふうに思わなくてもいいと思うんだけどな」

「どうしてそう思うんです?」

「当たって砕けろって言うだろ?振られたら俺のこの胸で存分に泣けばいいからさ」

ほら、と虎徹は自分の胸をドンっと叩く。優しいのか残酷なのか、バーナビーはふっと笑う。
お嬢ちゃんも振られたら俺の胸を貸してやる、なんて笑う虎徹。

「お嬢ちゃんも可愛いんだからその好きな人の事、自分で振り向かせてみればいいんじゃないか?」

「え…?」

「綺麗になって好きな人にアピールして、自分の事を好きになって貰うんだよ」

「…その人が超が付くほど鈍感な人だったら?」

「気づくまで何度でも挑戦するんだよ。ま、そんな鈍感な相手には時には強引さも必要かもしれないけどな」

そういって虎徹は笑う。なんの悪気もない彼の率直な意見。
それがどうもストンと胸に落ちた。自分は女性ではないので、もっと格好良くなって食事に何度も誘って話をして、時には強引に迫ってみるのもいいかもしれない。

「ありがとうございます。参考になりました」

「俺もお嬢ちゃんにそんな事されたら一発でノックアウトされちまうけどな!はははっ!」

その言葉をバーナビーは聞き逃さなかった。

「本当ですか」

「ん?」

「本当に、綺麗に、もしくは格好良くなって貴方に迫ったら、恋に落ちてくれますか?」

「えっ…お、おう…」

思わず身を乗り出してしまった。虎徹が若干引いて驚いている。これはマズイ。
今はアイドルとして来ているのだ。彼女に迷惑がかかってしまう。

「なんて、冗談です」

「えっ、あはは…冗談か、はは…」

少し落ち込んでいる様子の虎徹にバーナビーは少しショックを受けながらも、そのまま番組は終了した。
収録室から自分の楽屋へと戻る途中。早く女装を解きたいバーナビーの後ろから廊下を駆け足で駆け寄る虎徹の姿があった。

「お疲れ様ー!今日の収録、楽しかったぜ」

「自分も、タイガーさんとのお話、楽しかったです」

「おいおい、いつまでソレ、続けんだよ」

「え…?」

虎徹はニコリと笑う。

「お前バニーだろ」

ドキっとした。まさかバレてしまっていた?どこでミスを出してしまったのだろう。
完璧にやったはずなのに。バーナビーは観念してつけていたカツラを外した。

「良く分かりましたね。僕だって事に」

「バッカ。あんなバカデカイアイドルがいるかよ。それに、あんな綺麗なエメラルドグリーンの瞳、俺はお前以外知らないしな」

なんという殺し文句。最後に迫ってしまった時にバレてしまったらしい。
もっと冷静でいれば良かった。自分が代わってしまったアイドルに申し訳がない。
だが、ここであのアイドルだった女性がバーナビーだとバレてしまった今、虎徹はバーナビーをどう思っているのだろう。
気持ちが悪い、と嫌悪してしまっただろうか。
いや、虎徹に限ってそんな事はいないだろう。だがそれがバーナビーにとっては辛いことこの上ない。
いっそ嫌われてしまった方が楽なのに。

「軽蔑しましたか」

「ん?なんで?」

虎徹はキョトンとする。虎徹はもうバーナビーの好きな相手が誰だか分かっているはずだ。
何事もなかったかのように接せられるのも辛いのに。

「なんでって、貴方僕の好きな相手が誰だか分かっているんでしょう?」

「うん」

「だったらなんで…!」

「可能性はゼロじゃねーよ」

「え?」

「だから、可能性はゼロじゃねーよって言ってんだよ」

それは、そういう意味で受け取ってもいいのだろうか。心なしか虎徹の頬が赤く染まっているような気がする。
ドクンと胸を打つ。

「そうですか…。なら、覚悟してください。本気でいきますから」

「おう、本気で来い」

叶わない恋だと思っていたのに、この瞬間叶うかも知れない恋に変わった。
それは諦めていたのに、可能性が広がった。
バーナビーは前の歩く虎徹の背に向け拳を握った。

(覚悟してください、虎徹さん。必ず僕の虜にさせてあげますから)



(つーかバニー女装姿可愛いな。お前今度それでブルーローズとインタビューとか受けてみれば?)
(嫌ですよ。今度は虎徹さんが女装する番ですから。ほらコレ、アニエスさんに借りてきましたら、どうぞ)
(え、コレって交代するもんなの?てかおっさんの女装見ても何も面白くないだろ…ってよりによってメイド服とかおいバニー!)

――――――
ピピ様、リクエストありがとうございました!
もうリク内容忘れてしまっているかもしれませんが、この度は完成が一年後という事になってしまい申し訳ありません><

兎か虎のどちらかが女装してうっかり相棒に出くわして恋愛相談をする、というリクだったのですが…。
うっかり、出くわした、か…?
女装をするなら兎の方かな、と思ったので兎の方で書かせて頂きました!
彼は女装でもなんでも着こなしそうで恐ろしいですBBJ…。

リクエストありがとうございました!!

『空をとぶ5つの方法』様よりお題をお借りしました。






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