カシャ、と音が鳴った。
音が鳴った方向を見ると、そこにはカメラを構えた元相棒の姿。

「…何を、してるんです?今は仕事中のはずですけど」

「ん?いやぁ、仕事中のジュニアくんの横顔がイケてたもんで、ついうっかり」

悪びれる様子もないライアンに、バーナビーは大きく溜息を吐いた。
元相棒、ライアンは一度はシュテルンビルトを離れ海の向こうにある国へ旅立つはずだったのだが、
アニエスが今彼をシュテルンビルトから離すのは惜しいという事で急遽少しの間だけアポロンメディアに留まって貰う事にしたのだ。
ライアンはその申し出を断る事はせず、金が貰えれば何でも良い、と受け入れてくれた。

「はーい、ジュニアくーん!そのままパソコンに向かってお仕事しててー!」

「ライアン、今仕事中のはずなんですが。貴方仕事もしないでキャメラを構えて何をしてるんですか」

「今この瞬間のジュニアくんの表情が撮りてぇんだって!俺、キャメラが趣味って言わなかったか?」

「だからと言って仕事と趣味は別です」

「っちぇー!これだから真面目くんは…面白くねーの!」

「面白くなくて結構です」

バーナビーはそう言うと目の前のパソコンに向かいカタカタとキーボードを操作し作業を再開する。
今、彼は少々機嫌が悪い。理由は、今現在の相棒がこの場に居ないからだ。
今現在のバーナビーの相棒である虎徹は雑誌の取材があり数時間前からアポロンメディアを離れていた。
珍しい事もあるものだ、と思うかもしれないが、虎徹は一度ヒーローを解雇され、そしてまた復帰したヒーローとして人気を集めていた。
それは相棒として喜ばしい事だし、自分もそれを望んだのだ。文句は言えない。
今やアニエスの企画でワイルドタイガーを他のヒーローともコンビを組ませてみよう、なんて言い出す始末でバーナビーは気が気でない。

「ホーント、ジュニアくんってアライグマのオッサンの事大ッ好きだよなァ。妬いちまうじゃねぇか」

「煩いですよ」

バーナビーと虎徹の仲はライアンは既に知っていた。バラした、と言うよりは彼は彼で勘付いたらしい。
恥ずかしいような、そうでもないような。元相棒に知られるとなるとなんだか複雑な気持ちだ。
そんな時、バーナビーの携帯が鳴った。誰かからの着信のようだ。
名前を見るとそこには大好きな相棒の名前。それだけで胸が高鳴った。

「っも、もしもし!?虎徹さん?」

『あ、バニーか?今取材終わったから、すぐそっち向かうな!』

「はい…っ!」

声が聞こえた瞬間、先程まで苛々していた気分は吹っ飛んでしまった。
未だドキドキする胸。虎徹の名前が表示されている携帯の画面を食い入るように見つめる。
すると背後から声が聞こえた。

「へー、ジュニアくんの待ち受けってオッサンなんだ?結構いい写真撮ってんじゃん」

「え、そう…ですか?」

「とりあえずオッサンが待ち受けなのは若干引いたけど、ジュニアくん写真撮る才能あるんじゃね?」

なんなら俺様がキャメラとはなんたるか教えてやろうか?と、得意げに話すライアンにバーナビーは一瞬迷った。

「写真はいいぜー?その瞬間瞬間を綺麗に映し出してくれるし。その時の思い出にもなるしな」

「思い出…」

「そうそう。ジュニアくんもオッサンばっか撮ってないで他の事にも目を向けてみろって!結構楽しいからよ」

そうニヒルに笑うライアン。彼は本当に良い奴だと思う。
始めの頃、彼を疑っていた自分が恥ずかしい。
そういえばバディを組んで数ヶ月した頃、虎徹になにか趣味を持てと言われた事があった。
とりあえずやってみて、気に入ったらそれを続けていけばいいと虎徹はその時そう言っていた気がする。
まずは軽くやってみようか、バーナビーはそう思い始めた。

「たまには撮られる側じゃなくて撮る側になってみろって。な?」

「…そうですね。少しやってみます」

「お、マジになったな?んじゃあ、俺様がキャメラの使い方から教えてやるよ!」

なんだか後輩でも出来たかのように嬉しそうにはしゃぐライアンにふっとバーナビーは小さく笑った。
ああ、彼はこういう顔も出来るのか。
それから虎徹がアポロンメディアに戻ってくるまでライアンのカメラ講座は続いた。



「で、こういう事になると…」

「虎徹さんっ、こっち、こっち向いてください!」

「ダメダメ、ジュニアくん。自然な所を撮らなきゃ。まっ、俺様が撮ればなんでも輝いちまうから関係ねーけどな」

「はぁ…。おいライアン!バニーに変な事吹き込むなよ!」

「変な事じゃねぇよ。れっきとした趣味だって。なぁ?」

「そうですよ虎徹さん。虎徹さんが昔僕に趣味を持てって言ったんじゃないですか」

「いや、そうだけど、これはなんていうか…」

違う気がする。虎徹はげんなりとした。帰ってくるなりバーナビーとライアンはカメラを構え、出待ちをしているファンのさながらに虎徹を待ち構えていた。
仕事は、と聞くと終わらせたと二人同時に答えた。
虎徹は取材でアポロンを離れていたので仕事が終わっていない為、一人カタカタと苦手なデスクワークをしているのだが、どうも気が散る。

「虎徹さん、そのまま、そのまま…!」

「……あの、バニー?」

「僕の事は気にしなくていいので。そのまま仕事を続けてください」

(気にしない方が無理だっつーの…)

携帯のカメラ機能を使い必死に写真を撮るバーナビーに虎徹は小さく溜息を吐く。
その様子を楽しそうに眺めるライアン。彼がなにか言ったに違いない。
バーナビーが趣味(?)を持ってくれた事は嬉しいのだが、一つ問題がある。
それを考えるとブルリと身体が震えた。彼の事だからきっとその事は頭の端にでも置いてあるに違いない。
今日、バーナビーの家に行くのがとてつもなく嫌だ。

「さぁ、虎徹さん。今日はたくさん写真を撮りましょうね」

「…うう、俺ライアンの事一生許さねーからな…っ!」

「はは、アンタの相棒の為に人肌脱いでやったんだろうが。感謝してくれよ?」

巻き込まれるのは勘弁だけど。ライアンはそう言って自分のデスクに飾ってある自慢のペットの写真を愛おしそうに見つめた。



アロポンメディアは今日も平和である。

――――――
仲の良いアポロントリオ!!
兎虎+獅子!
写真を撮るのがライアンちゃん趣味という事で…そういうのも混ぜてみたり。
兎虎の夜のお話はご想像におまかせします^^

『空をとぶ5つの方法』様よりお題をお借りしました。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -