清々しい青空が広がる朝。
今日も一日頑張るぞ、という気持ちでアポロンメディアのロビーを潜るライアン。
しかし前方から物凄い勢いでやってくる元相棒の姿にその気持ちは一瞬にして消え去った。

「ライアン!虎徹さんを捕まえてください!」

「はァ?なーに言ってんのジュニアくん。オッサンなんてどこにも…」

足元にモサモサとした謎の生物がいた。なんだこれは。
灰色に近い茶の毛で、モフモフとした尻尾。瞑らな瞳。

「ピー」

鳴いた。可愛らしい声で鳴いた。
捕まえろ、と言われたのはどうやらこの動物らしい。
ひょいっと軽く捕まえると、その生き物はまた小さく鳴いた。

「もうっ…やっと大人しくなった…」

「オイオイ…どういう事なんだよジュニアくん。説明しろって」

「これは…話すと長くなるんですが…」

ライアンが出社する数時間前、バーナビーは自身の愛車で虎徹を迎えに行ったらしい。
彼を自宅前で迎えアポロンメディアに向かっていた最中に事は起こった。
彼らの目の前で引ったくりがあったのだ。もちろん二人はそれを見逃す事はせず、颯爽と登場し犯人を捕まえた所までは良かった。
しかし、問題はそこで起きた。バーナビーが警察へ連絡している間、虎徹が犯人を捉えていたのだが、
捕まえた男はどうやらNEXTだったようで能力を発動させてその場を逃れようと、虎徹に向かって何か光の玉のようなものを放ったと言う。
あっという間の出来事で、バーナビーは目を丸くした。
その場に居たはずの虎徹の姿は無く、まるで脱ぎ散らかしたかのようにその場に彼の衣服が散乱し、その上にあの動物が居たという。
幸い犯人は近くまで来ていた警察にすぐに捕まった。
そして残されたバーナビーとモフモフ。あのNEXTのせいで虎徹がいなくなってしまったという事は、もしかしてこの動物はまさか…。

「で、このアライグマがオッサンなんじゃねぇかっつーわけか」

「はい…」

ありえない話ではないが、都合が良すぎではないだろうか…。ライアンは抱えているアライグマを見てそう思う。
これがあのワイルドタイガー?虎ではなくアライグマになってるではないか…。
彼らが自分の事で悩んでいるとも微塵も思っていない、愛らしい瞳でコチラを見つめてくるアライグマにライアンは溜息を吐く。

「で?いつ戻んだよ」

「それが今調査中らしく…いつ戻るのかは分からないそうです」

「はァ?んだよそれ…」

ますます頭を抱える。このままじゃヒーローなんて出来る訳もない。

「じゃあこの…オッサン(仮)が元に戻るまでまたライアン&バーナビーでコンビ組んで活動すんのか?」

「まぁ…恐らくそういう事になるでしょうけど」

「あー、まーたこの真面目くんと組むのかよー…折角フリーになれたっつーのに、最悪だぜ」

「僕も同意見ですよ。また虎徹さんと一部でヒーローが出来るって矢先にこんな…」

二人同時に溜息を吐く。そんな事は露知らず、アライグマとなった虎徹はまた愛らしく鳴いた。
虎徹を抱えたままオフィスに戻り、さてどうするかと二人は考える。
虎徹はキョロキョロと周りを警戒するように歩き回る。すると観葉植物に興味を持ったのか葉を器用に両手で弄り始めた。

「あー、こらっ虎徹さん、それは食べ物じゃないですよ」

「つーかよ、そのオッサンどうすんだよ。ジュニアくんが持って帰んのか?」

「それが問題なんですよ。僕の住んでいるマンション、ペット禁止なんです…」

「ペットってオイオイ…」

もはや相棒がペット扱い。これには笑うしかない。
バーナビーが虎徹を引き取れないとなると自然と選択しは一つとなる。
縋るようなバーナビーの目にライアンはそっと目を背ける。
なんで自分が。そういうのは相棒の役目だろ。そう思うも、愛くるしい瞳で見つめてくるアライグマにウッと言葉に詰まる。

「っち、しょうがねぇな。俺様が預かってやるよ」

「ライアン…!」

「そのオッサンが元に戻るまで、だ。勘違いすんなよ」

「良かったですね虎徹さん!ライアンが面倒みてくれるそうですよ!」

「聞いちゃいねぇ」

その日は結局事件も無く、軽くトレーニングをしそのまま虎徹を抱え自宅へと帰宅したライアン。
アライグマって何を食べるのだろう。ライアン自身もペットとしてイグアナを飼っているが、アライグマとは相性が良かっただろうか。
そんな事を考えながら夕飯を食べ、アライグマの事について調べていると時計から日付けが変わる深夜十二時を告げる音がなった。
いつの間にやら結構な時間が経っていたようだった。
今日も仕事だ、さて寝ようかと考えた矢先、ガシャーンと盛大に何かが落ちた、もしくは壊れた音がした。
なにかあのアライグマがやったのだろうか。人間だった頃は壊し屋なんて呼ばれていたらしいが動物の姿でも壊し屋をされたら溜まったものではない。
ガシガシと頭を掻きながら音がした場所へ向かう。

「ったく、なにやってんだよオッサ……は?」

ライアンの目の前には、よく見知った全裸の男がいた。
その男は先ほどまでアライグマだったはずの男。

「…オッサン?」

「うっ…、え、え?ラ、ライアン…?なんでここに?」

「そりゃコッチの台詞…、ってかアンタ元に戻ったのか?」

「元に…?何の話…」

今の状況が良く分かっていないのか虎徹は首を傾げる。
一つ分かるのは、この場に全裸の虎徹がいてあのアライグマがいなくなったという事は、あのアライグマは確かに虎徹だという事だ。
ライアンはめんどくさがりながらも虎徹にこれまでの経緯を教える。

「あー、そういう事だったのか。確かにあの時なにかされた感はあったんだけど、まさか動物にされるなんてなぁ」

「…とりあえず服を着てくんねぇかな」

「おぁー!悪い!!」

ライアンが差し出した少し大きめのシャツに虎徹は慌てて腕を通した。
東洋人独特の肌に、年齢に似合わず鍛え上げられスラリとした身体。男の色気を放つ虎徹にライアンは少しクラリとする。

(いやいや、待てよ…俺様はゴールデン・ライアン、男になんか微塵も興味なんかねぇっつーの…)

それでも目が離せなかった。無防備に笑う彼に目を奪われる。
必死に自分の気持ちに蓋をしようとライアンは口を開く。

「っなぁ、アンタが元に戻ったっつー事は効力は切れたのか?」

「さぁ…俺にも良く分からん」

困ったように虎徹は笑う。
人間に戻ったのは一時的かもしれない、という事で朝なにかあったら大変だという事で虎徹はそのままライアンの家で一夜を過ごすことになった。
他人の家に来たのが楽しいのか虎徹はライアンの家をキョロキョロと見回す。
なんだかアライグマだった時となんら変わりがないように思える。
なんであんな無防備に笑えるんだろう。不思議だ。ライアンはじっと虎徹を見つめる。
あんなにスキだらけなら、NEXTに攻撃を食らってもおかしくはない。
良くバーナビーはあんな男とコンビを組めたものだとライアンは思う。
だがバーナビーは彼に特別な想いを抱いているようで、それもあるのかもしれない。虎徹はそれに気づいていないようだけれど。
それならいっそ、自分が先に奪ってしまおうか。そう考えた自分に少し驚いた。
あんなにスキだらけなら、他の奴らに奪われる前に自分が奪ってしまえるかもしれない。なんだかそう思ってしまった。
誰にでもあんな無防備でスキだらけな彼を心配しつつ、そっと自分の胸にある想いを気付かないように無意識にしまう。

「おいオッサン、そろそろ寝ようぜ」

「えー、もうちょっとこのイグアナと…」

言うことを聞かない年上の男に、ライアンはグッと虎徹の腕を掴み自分の方へ引き寄せる。
出会って間もない奴にこんな大胆にスキを晒すなんて、この男はどうかしている。
それとも相棒の元相棒だから信頼している、とでも言うのだろうか。だとしたら相当心の広い馬鹿なんだろう。
そんな馬鹿な男に心惹かれている自分も、馬鹿なんだろうけど。

「そんな無防備にスキ晒してっと、キスするぞ」

低い声で耳元で冗談を囁けば、虎徹の顔は忽ち真っ赤になった。
まさかそんな反応が返ってくるとはライアンも思っておらず、二人して真っ赤になる。

「ねっ寝るか!な!お、俺そこのソファーでいいからさ!」

「い、いや!オッサンは俺様のベッド使えよ!家主の言う事は聞くもんだぜ!」

互いに譲り合った結果、ライアン宅のご自慢のキングサイズのベッドで二人で寝る事になった。

((なんでこんな事にっ!!!))

緊張と恥ずかしさで心臓がドクドクと脈打つ中、二人は互いを気にしながら背を向けそのまま眠りについた。



(…起きたらアライグマになってるつー事は、効力切れてねぇのかよ…)
(ピー?)
(あー、ハイハイ。飯な。今用意すっから…)

――――――
アライグマになってしまった虎とそれの世話をする獅子。
夜中の十二時から朝方の六時までが虎がアライグマから人間に戻る時間帯です。
獅子はきっと動物のお世話とか好きだと思う…!

『確かに恋だった』様よりお題をお借りします。




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