*獅子虎+兎





遠い海の向こうからオファーが来て、このシュテルンビルトを離れるまであと三日。
折角訪れた初めての街だ。ここに来るのも最後かもしれないのだから目一杯楽しもうと、
ついこの間まで人気ヒーローのバーナビーとバディを組んでいたライアン・ゴールドスミスは
大量の荷物を抱えゴールドステージにあるショッピングモールを一人歩いていた。

(さっすがシュテルンビルトだな。こう…俺様に似合うブランドのオンパレードって感じ?)

ブランド好きのライアンとしては、自分の好きな店がほぼ全て揃うこのシュテルンビルトは夢のようだった。
本当ならばずっとここに住んでヒーローを続けていても良かったのだが、何分アポロンメディアの給料は安い。
それだと自分の好きな物を買えるのに限界がある。それならば、高い資金を出してくれる会社の方がいい。
少ししか絡んでいないが、シュテルンビルトのヒーロー達は中々に個性溢れる人ばかりで興味はあったが、誘惑には勝てない。

(…そういやジュニアくん、あのアライグマのオッサンの話をする時スッゲェ嬉しそうな顔してたよなァ…)

バーナビーが若いのにあんなオジサンめいた事を言うのはきっと自分が彼と組む前にバディだったというそのオジサンの影響なんだろう。
相当信頼しているようだったし、コンビネーションもバッチリだった。
ただ、バーナビーが彼に向ける視線は友人としてバディとしてではない様な気もしたが…。
彼がそんなに夢中になる虎、いや、アライグマに少々興味が出た。

(ココを出る前に話でも出来たら良かったんだけどなー…ま、そうそう会える訳……あ?)

ふとした視線の先に、どこか見たことのある人物がいた。
小麦色の肌に特徴のある髭。あれは、まさか…。

「…アライグマ?」

「んあ?あー!お前確か…バニーと組んでた…えーっと…」

「ライアンだ。ライアン・ゴールドスミス。ったく覚えとけよなー」

「わりぃわりぃ」

申し訳なさそうに男、虎徹は笑った。

「アンタなんでこんな所にいるんだ?」

「バニーがよ、今店ん中でファンの子にサインしててさ…」

「追い出されたのか」

「ちげーよ!空気読んで自分から出てきたんだよ!!」

「同じだろ…」

呆れ顔のライアンに虎徹は何かを思い出したようにライアンに声を掛ける。

「あれ?お前って海の向こうからオファーがあったんじゃなかったか?まだココにいて大丈夫なのか?」

「あー、アレ?まーだダイジョブなんスよ。あと三日ぐらいあるし、観光でもしとこうかなってさ」

「お、ならオススメの所とか連れて行ってやろうか?シュテルンビルト初めてなんだろ?」

「まぁ、来てすぐにジュニアくんとコンビ組まされたから街を見るなんて全然出来なかったしな」

虎徹は嬉しそうにニコニコと笑ってライアンを見つめる。
あの琥珀色の瞳。なんだろう。吸い込まれそうな程、綺麗だ。
もしかしてあの瞳にバーナビーもノックアウトされてしまったのかもしれない。
それなら少しだけ納得出来る。
バーナビーが戻ってくるまで、と近くにあったベンチに腰掛ける。

「なぁ、バニーと組んでみてどうだった?」

「どうって…コンビ組んだのも初めてだしな…んでも、ジュニアくんの印象はただクソ真面目なジジ臭いやつって感じかな。あとすぐ顔に出る」

そう言うと虎徹は腹を抱えて笑いだした。なにか可笑しい事でも言ったのだろうか。

「あんな短い期間しか組んでないのに、よくアイツの事見てるなぁ!俺なんて最近漸く分かり始めたってのに」

「いやいや、アレはわっかりやすい性格してるっしょ…。本人自覚ないみたいっすけど」

「え?そうかぁ?」

ああ、とライアンは察した。これはバーナビーが苦戦するわけだ、と虎徹を憐れむように見る。
鈍すぎる。これは鈍すぎる。思わずため息が出た。

「でも、バニーと仲良くしてくれてありがとうな」

「え?」

「ほら…アイツ結構他人を近寄らせない性格してっからさ…大丈夫かなって心配してたんだよー」

そう言って本当に心から嬉しそうに笑う虎徹に目を奪われた。
なんとなく分かる気がした。他のヒーローがあんなに信頼しているワイルドタイガーは、こんなに暖かい人なのか。
こんなにも想われている彼が少しだけ羨ましくなった。
自分は上辺だけ人気があっても、素顔の自分は誰も知らない。
だけど彼は違う。そんな彼が少しだけ妬ましくて、羨ましかった。
そんなふうに自分もなりたい。

「…アンタ、気に入ったよ」

「ん?」

「なーんでも!あ、ジュニアくん出てきた」

「あ、バニー!!」

店からヨロヨロと出てきたバーナビーに駆け寄る虎徹。虎徹の顔を見るとバーナビーの表情は花が咲いたように明るくなった。

(わっかりやすすぎだろジュニアくんよ…)

それに気づかない虎徹も虎徹だと思うが…。
なんにせよ、あの二人は互いに信頼して想い合っているのだろう。
そういう人物を自分も見つけられたらいいのだけれど。
もし見つけられなかったら、どうしようか。いっその事奪ってしまおうか。
ライアンの存在に気付いたバーナビーは目を丸くした。

「ライアン!?なんでここに…」

「買い物しに来たらたまたま会ったんだって。そんな睨むなよジュニアくーん」

「睨んでません。あと、ジュニアくんって呼ぶの止めて下さい」

睨んでいるし、完全に敵視しているじゃないか。本当に分かりやすい。
ライアンはクツクツと笑う。ああ、本当に面白い人達だ。
このシュテルンビルドを離れるのが本当に惜しいぐらい。

「…ジュニアくん」

「…だから、そう呼ぶの止めて下さいって言って…」

「早くしねぇと、俺様がこのオッサン奪っちまうぜ?」

虎徹に聞こえないよう小さく囁けば、バーナビーはダメだと言わんばかりに虎徹を自分の身体で隠した。
年上だとは本当に思えない。声を上げて笑いそうになるのを必死に堪える。
半分冗談で、半分本気。いつまでも奥手なら本当に奪ってしまうかもしれない。

「ま、がーんばれよジュニアくん!」

「言われなくても」

「え?なに?え?ええ??」

一人慌てふためく虎徹に対して、バーナビーとライアンは互いに睨み合う。
この人達に会えて良かった。この街に来て良かった。
虎徹とバーナビーと別れ、ライアンは空を見上げ思う。
機会があったらまたこの街に来よう。その時はもっと楽しい街になっているといい。



その時はまた、仲良くしてくれるかな

――――――
初ライアン!
獅子虎+兎みたいな話になった…。
獅子虎とかモブ獅子とか兎虎前提獅子虎とか書きたい…。
兎虎前提獅子虎は兎が忙しい時にセフレで獅子と…とか…。
ライアン可愛いです…っ。
久しぶりの更新でした!


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