「…遅い」
時刻はもう日付が変わろうとしている所だ。
それなのにバニーがまだ帰って来ない。携帯に連絡を入れても返事が返って来ない。
預かっている身としては何かあったんじゃないかと心配してしまう。
どうしよう。もしかして事件に巻き込まれたとか、犯罪者に捕まってしまったとか…!
外は大雨。傘は持って行ったんだろうか。迎えに行きたいけどどこにいるのか分からないし…。
バニーはいつもアカデミーが終わったあと、両親の死についていろいろ調べてるらしいけど…。
あんまり危ない事はしないで欲しい。えっと…なんだっけ?
ウロ…ウロボ…、なんだっけ?と、とにかく!
今は俺が親代わりなんだから、バニーに何かあったら亡くなってしまった彼の御両親になんて言えば…!
「ばにぃ、早く帰って来てくれよぉお……」
俺の願いが通じたのか、ガチャリと扉の開く音。
俺は慌てて玄関に向かう。そこにはびしょ濡れになったバニーの姿。
驚いてタオルを持ってバニーに駆け寄った。
「お、おい!どうしたんだよびしょ濡れで…!」
「…なんでもありません」
「なんでもない訳ないだろ!傘は…」
「無くしました。もういいですか?今日は凄く…疲れたので」
「無くしたぁ!?ちょ!風呂入らないと風邪引くぞ!バニー!」
バニーは俺を無視して自室へと戻ってしまった。服も所々擦れてたし、何かあったのかもしれない。
こういう時、親って何をしてやればいいんだろう。
生まれたばかりの楓も大きくなったらこうなるのかもしれない。
親って難しい。特にこういう自分の気持ちを口にしない奴。
余計な口出しするともっと心を開かなくなるし、かと言って構わないとどんどん溝は深まってくばかりだろうし…。
バニーの部屋に入ろうとも鍵を掛けてるらしく入れない。俺の家なのに…。
寝る前はいつもバニーは暖かいミルクを飲むはずなのに、今日は何かあったのかそれを飲まずに寝てしまった。
相当疲れていたのかもしれない。俺も今日はもう寝ようと布団に入り込んだ。
♂♀
朝。昨日の雨とは打って変わって綺麗な青空。
いつも通りに起きた俺はまだバニーが起きてない事に気付いた。
アカデミーに行く時間だし、起こしに行こうにも、アイツの部屋には鍵が掛かってるから…。
そうは思いつつもドアノブに手を掛けると、ドアは簡単に開いた。
驚くも、そっと中を覗くと部屋の中は真っ暗。
だけど、床に倒れてるバニーを見つけた時は心臓が止まるかと思った。
「バニー!?おい、しっかりしろって!!」
額に手を当ててみると、物凄く熱い。きっと昨日濡れたまま寝てしまったからだろう。
熱を出している。とりあえずベッドに寝かせて、汗で濡れた服を取り換える。
おお…意外と良い身体してんなぁ…俺とは違って白くて…ってそうじゃなくて!!
「ふぅ、これで大丈夫か…?」
俺の服だから若干バニーには大きいかもしれないけど…ベタベタな汗掻いてる服着てるよりかはマシか…。
あとは食べやすいようにお粥を作って、いや、アイツにはスープの方がいいかもしれない。
あ、果物とかあった方がいいか?それなら買って来ないと…。
でもバニーをこのままにしておく訳には……あ!
能力を使ってババッと買ってスパッと戻ってくれば大丈夫か!
ロイズさんにバレなきゃ大丈夫だろ!
「バニー、俺ちょっと飯買いに行ってくるな。すぐ戻るから」
返事が返ってくる訳もなく、俺は急いで能力を発動させシュテルンビルドの街へ出た。
♂♀
「ただいまー!」
ガサガサと大きな紙袋にレジ袋を抱えて我が家へと帰る。これだけ買っておけば暫くは食糧には困らないだろう。
俺のビールも買ったし、途中料理の本も買ったし、お粥の作り方はバッチリ!…な、はず…。
お粥って作った事ないんだよな…。一応念のためスープの素は買ってきたけど…あと風邪薬。
病院に連れてった方がいいんだけろうけど、バニーの場合なんか頑なに拒みそうなんだよなぁ…。
身体細いし、ヒーローになるんだったらもっとがっしりして頑丈な身体にしないと。
台所でゴチャゴチャやっていると、後ろで小さくペタン、と足音がした。
振り返ると真っ赤な顔をしたバニーがフラフラと立っていた。
ぎょっとして持っていたビールを足の上に落としてしまった。
「い゛ッ!!…ッ!!…ッ!ッ!!」
「…何やってるんですか、おじさん…」
「痛ッ、い、ぐ…ッ!い、いや…お、お粥を…」
「…オカユ…?」
聞き慣れない言葉なのかバニーは首を傾げている。こういう所は年相応で可愛いのに。
お前の為に作ってるんだぞ、と言えばバニーはなんだか不機嫌な表情をした。
なんでだよ…お粥美味しいんだぞ!!
「結構です。薬だけ貰えれば、後は寝てれば治ります。あとこの服おじさんのですか?…ダサイセンスしてますね」
「うるせー!いや、お前を預かってる身としてはそういう訳にはいかないんだなー。お粥美味しいんだぞ!」
「美味しい美味しくないじゃなくて、おじさんが作るから不安なんですよ…ごほっ」
「ほら、咳してるしまだ熱あるんだからお前は寝てろ」
バニーは渋々といった形で部屋に戻って行った。
よし、これで堂々と作れるぞ!美味しくできるといいな…。
「バニーに美味しいって言わせるほど美味いお粥作ってやるぜ!」
♂♀
出来あがったお粥と薬をバニーの部屋へと持っていく。
ちゃんと食べてくれるかなー…。
バニーが食べてくれるまで俺は部屋から動かないぞ!という固い意志とともに俺用のビールも持って行く。
「バニー、出来たぞー!」
部屋に入るとバニーは本を読んでいた。まだ顔は赤い。
真っ白いドロドロのご飯を見て、バニーは一気に物凄く嫌そうな顔をした。
「…美味しいんですか?これ…」
「俺の実家では風邪引いた時に母ちゃんが作ってくれてたんだよ」
「………」
恐る恐るバニーはお粥に口を付ける。複雑そうな顔をするも、ちゃんと食べてくれた。
俺もバニーが食べてる横でビールを飲む。
バニーがお粥を食べてくれた事が嬉しくて、若干酔っているのもあると思うが俺は終始笑顔だった。
早く元気になってくれるといい。
「…病人の横でビールを飲むのはどうかと思うんですけど…」
「いいのいいの!バニーちゃん、早く元気になってくれよぉー」
「…おじさんはご飯どうしたんですか?」
「俺のご飯はバニーちゃんの笑顔!なんちゃってー!えへへへ!」
「気持ちの悪い事を…」
酔ってるんですね、とバニーが言う。うん、酔ってるんじゃないかな。
バニーを思いっきり甘やかしたいとか抱きしめてあげたいとか、そういう事を思うのはきっと酔っているから。
頼むから、あんまり無茶はしないで欲しい。心配する。
今やバニーは俺の家族みたいなものなんだから。少しは俺を頼って欲しい。
本当の親のように思って欲しい。俺も精一杯応えるから。
「…もう無茶するなよぉ…心配、する…だろ…」
「…はい。ごめんなさい」
酔いが回ってきたのか、落ちる瞼。ここはバニーの部屋なのに。
また怒られる…。そう思いつつも俺はそのまま眠りについてしまった。
早く元気になってくれると嬉しいな…。
俺とアイツと風邪っぴきと!
(お、バニー元気になったか!俺のお粥のおかげだな!)
(薬のおかげだと思いますけど。……でも、お粥、美味しかったです。ありがとうございます…)
(ん?何か言ったか?)
(いえ、何も。おじさんもう歳だから耳も悪くなったんじゃないですか?)
(なんだとぉ!?俺はまだ二十代だぞ!)
――――――
親子パロの続き!
おじさんの前だと全然素直になれない兎。
もっと自分を頼って欲しい虎。
そしてちょっとだけデレる兎。