ざわざわと人が行き交う池袋。静雄はキョロキョロと落ち着かない様子で周りを見渡す。
静雄はいつものバーテンダーの恰好ではなく、弟の幽が見立てた服を着ていた。
いつものバーテン服ではないからか、静雄だと気付くものは少ない。
シネマサンシャイン。静雄は時計をチラチラと確認する。
待ち合わせ時間は昼の一時。今はまだ十二時だ。一時間も早く来てしまうなんて。
ここであと一時間も待つのか。ちょっと寂しいけれど、待っている間もドキドキしてしまう。
これじゃあ女の子じゃないか。静雄は赤くなる顔をそっと抑える。
携帯でメールが来ていないかチェックするも、連絡はない。
映画館の隣にはゲームセンターもある事だ。少しだけ遊んで行こうと歩き出したその時。
「あー、シズちゃんだー!」
「!!」
思わず振り返ると、そこにはいつもの黒いコートではなく、しかし黒を基調とした服を着た恋人が居た。
かぁあ、と静雄の顔が赤くなる。
「なーんだ。俺が先に来て待ってようと思ったのに。シズちゃんの方が早かったんだね」
「だ、だって…楽しみだったから…」
「俺だって楽しみだったよ。だから待ち合わせ時間より一時間も早く来て待ってようと思ったのにさぁー…」
ふふ、と二人で笑い合う。
「ちょっと映画まで時間あるけど、先に入ってようか。パンフレットとか、グッズとか見てようよ」
「お、俺は臨也と一緒に居られるなら…なんでもいい」
「あはは、可愛いなぁ」
ああ、胸がドキドキする。普段と違う恰好しているからなんだろうけど。
臨也が静雄の手を強くに握り歩き出すので、静雄は胸の鼓動が抑えきれない。
このまま手を繋いだままだといつかこのドキドキが伝わってしまうのではないだろうか。
今日観る映画は静雄の弟の幽が主役のアクションものの映画だ。
静雄はゆっくり一人で観ようと考えていたのだが、どこからか臨也がその情報を手にし、
臨也の強い要望で一緒に観る事になったのだ。
飲み物とポップコーンを持ち指定席に着く。
映画のチケットは臨也が用意したのだが、はやりと言うべきか。
席は映画館の中で最も見やすい席だったのだが、静雄は気付いていない。
「今日の服はどうしたの?随分可愛い恰好してるよね?」
「可愛いか…?いや、俺…服とか良く分かんねぇから…全部幽に選んで貰ってて…」
「ふぅーん?なんか嫉妬しちゃうなぁ。シズちゃんの服は全部俺が選んであげたいのに」
「あっ…じゃあ映画観終わった後、臨也が選んでくれよ」
「いいの?じゃあシズちゃんも俺に似合う服選んでね?」
「えっ…でも、俺ファッションセンスねぇしよ…」
「大丈夫だって。俺はシズちゃんが選んだのなら何でも着るよ」
「臨也…」
彼らの前後左右にいる他の客はどうしたらいいのか分からない。
ただこちらの方が恥ずかしくなってしまうのは確かだ。
映画が始まってからも二人はずっとイチャイチャしていた。
「ねぇ、シズちゃん。幽君より俺の方がカッコいいよね?」
「あっあたりまえだろ!幽は…自慢の弟だけど、臨也も…カッコいいと思う…」
「俺、も?シズちゃんは俺の事そんな軽く思ってたの?」
「そ、そうじゃなくて…!…俺が知ってる中では臨也が一番だよ」
「シズちゃん…」
ザワザワ。クライマックスシーンに入るというのに、二人はそんなのは気にも留めない。
「シズちゃんは、あのヒロインの女優さんよりすっごく可愛い」
「女の人と比べられてもな…複雑だ」
「ふふふ、あの女優さんと同じぐらい美人で可愛いって事」
「うーん…俺は男だぞ」
「俺にとっては可愛いの」
「…そ、そうか…」
砂を吐きそうな勢いだ。映画が終わるまで二人はずっとこの調子だった。
映画館を出る時には二人はキラキラと輝き、他の人達はグッタリとしていた。
「いい映画だったね。監督がいいのかな?」
「幽の演技力だろ」
「シズちゃんはホーント弟君大好きだよねー」
「…愛してるのは臨也だけだぞ」
「っ!!……俺は人間の事は愛しているけど、個人としてはシズちゃんだけだよ」
濃度の濃い甘い雰囲気を醸し出す二人に、数人が映画館前でバタバタと倒れたそうな。
雰囲気恋人
(あれ、どうしたんだろう?シズちゃんの可愛さに悩殺されちゃったのかな?)
(なっ、何馬鹿な事言ってるんだよ…!)
(悩殺されちゃったのは俺なんだけどね)
(いざや…っ)
―――――
光宙様、リクエストありがとうございました!
完成が遅くなって申し訳ありません><
彼らはイチャイチャしてたらすでに周りが見えなくなりそうですよね…。
こう…完全なる二人だけの空間というか…。
お前しか見えてないんだぜ、みたいな…。
リクエストありがとうございました!!