明るく元気な声が学校中に響く。保険医である虎徹はふわぁ、と大きな欠伸をする。
校庭で駆け回る子供達。それをただぼぉっと見つめる。
虎徹は暇だった。する事もなく、ただひたすら校庭を見つめお茶を飲む。
「……少しぐらい、ベッドで寝てもいいよな…」
昨日は徹夜で書類を処理していた為、殆ど寝ていないのだ。
キョロキョロと周りを見渡して、扉に『外出中』というプラカードを掛けようとした処。
目の前で勢いよく扉が開きドンッと誰かとぶつかり虎徹は尻もちをついた。
「あっ、ごめんなさいタイガーさん!」
「はぇ?お、ホァンか!」
黄色いジャージに身を包んだ小柄な女の子。武道を得意とする明るい活発な少女だ。
タイガーとは虎徹のあだ名で、虎徹の字を読めない生徒が多く、虎徹自ら自分の事をタイガーと呼ぶように言ったのだ。
「どうした?怪我でもしたのか?」
「ううん!ボクはしてないんだけど…イワンさんが…」
「イワン?」
イワンとは、日本が大好きな少し内気な少年だ。確かホァンと同じクラスだったはずだが…。
後からゆっくり現れたのは、物凄く落ち込んだイワン。
所々擦り剥いているいるようだが、何かあったのだろうか。
「忍者のマネしたら木から落ちちゃったんだってさ」
「うう、恥ずかしながら…こんなカッコ悪い処をタイガーさんに見られてしまうなんて…」
「おいおい、大丈夫かよ。ほら、擦り剥いた処見せてみろ」
イワンの怪我は大した事はなく、消毒をし絆創膏を貼って処置は終わった。
「これからは無茶するなよ?日本の事なら…ほら、俺が教えてやっから。時間がある時に保健室に来い」
「あ、ありがとうございますっ、ううぅ……」
「イワンさん、泣き虫だなぁ…じゃあねタイガーさん!ボクもう行かなきゃ!」
「ホァンも気を付けろよー!あ、この前くれた肉まん、美味しかったぞ!」
「ホント!?また持ってくるね!!」
騒がしくホァンとイワンは保健室を出て行った。朝から忙しい二人だ。
さて、と今度こそ扉にプラカードを下げようとした、が。
「タ、タイガー先生…?いる…?」
「ん?カリーナ?どうした?」
「あ、あのね…先生がこれ渡してって…」
「俺に?…げ、また書類かよ…」
カリーナから渡されたのはまた新しい書類。昨日頑張って終わらせたあれは一体なんだったのか。
ぐったりと落ち込んでいると、カリーナが小さく話しかけてきた。
「あのっ、あのねタイガー…こ、今度の日曜って…何か用事あったりする…?」
「日曜?いや…?」
「本当!?あの、えっとね、バイト先のバーで私出る事になったの…だから、時間があったら来てほしいんだけど…」
「おお、いいぞ。行くよ」
学校が終わってからカリーナは小さなバーでアルバイトをしていた。
彼女の夢は歌手になること。学校の校則でアルバイトは禁止なのだが、虎徹はカリーナが夢の為に頑張っている事を知っている為、
彼女がアルバイトをしている事には目を瞑っていた。
「絶対、絶対だよ!!」
「分かったって。約束する。必ず行くよ」
「あっありがとう…!!」
慌しくカリーナが部屋を出て行ったと思うと、今度は。
「虎徹さん、おはようございます」
「…お、バニーちゃんか、おはようさんっ!」
「今カリーナさんが物凄い勢いで出て行かれましたけど…どうかしたんですか?」
「いや…ちょっと、な」
バーナビーはこの学校で一番有名なイケメン教師だ。
彼が初めてこの学校に来たときに教育係として任命されたのが虎徹で。
バーナビーにいろいろ教えていたのだが、始めの頃のバーナビーはツンケンしており虎徹の言う事など聞きもしなかった。
だが、それも時間が経つにつれ解れていき、今では暇さえあればバーナビーは虎徹の居る保健室へやって来るようになった。
「ここで生徒のテストの採点していいですか?」
「駄目だって言ってもやるんだろ?」
「はい」
「…はぁ、もう……」
授業が無ければ虎徹の傍にずっとくっついて回るバーナビーに、虎徹はうんざりしていた。
始めに会った頃と性格がグルリと変わったような気がするのだが…。
気が付けば保健室の校庭に繋がる扉の前には女子生徒が黄色い声を上げ群がっていた。
鍵は閉めてあるのだが、このままだと破壊されそうな勢いだ。
「…保健室って、なんだか卑猥な感じがしますよね」
「は?」
「だって…ほら、すぐそこにベッドがある。扉の鍵さえ閉めてしまえば、ここは個室になります」
何を言い出すんだろうと虎徹は思う。彼の丸付けをする手が止まったかと思うと、急に立ち上がりカーテンを閉め始めた。
薄暗くなった保健室。虎徹は急にどうしたんだとあたふたし始める。
バーナビーは虎徹の腕を掴んで無理矢理ベッドに連れ込む。
「ちょっ、おいおいおいおい!!止めろって!!」
「虎徹さんと二人っきりって考えたら…もう止められなくて…」
「くっそ!この発情期兎が…!誰でもいいから助けっ…!」
バーナビーにベッドに押し倒され、あわやキスをされそうになった瞬間。
保健室の扉が轟音と共に勢いよく吹き飛んだ。
何が起こったんだと慌ててバーナビーをどかして起き上がってみると、そこには虎徹の親友アントニオと、ニコニコと楽しそうに笑っているキースの姿があった。
「イッテテ…ったく、昼間から何してんだお前らは…」
「大丈夫かいバイソンくん?女子生徒が保健室が開いてないというのでね…ちょっと無理をして開けさせてもらったよ」
「ぅぉお、なんだか良く分かんねぇけど助かった!」
「っち、あと少しだったのに…!」
虎徹がアントニオに駆け寄りありがとうと半泣きでお礼を言う中、キースはバーナビーに駆け寄り小さな声で囁いた。
「抜け駆けは駄目だよ、バーナビー君」
「…貴方も相当黒いですね」
「君も人の事言えないだろう?お互い様さ」
「そうですね…」
朝から騒がしい保健室。すると今度は朝の予鈴が鳴り響いた。これから授業が始まるのだ。
虎徹はハッとすると急いで保健室に溜まる生徒や先生を追い出した。
「ほら、これから授業だろうが!戻った戻った!!」
「でも虎徹さん!僕は一時間目は授業が無くて…」
「いいから!お前は職員室に戻れ!!」
無理矢理押し出し、壊れた扉を何とか元に戻すと、虎徹は大きなため息を吐いた。
「も、…俺仕事先変えようかな…」
一人寂しくポツリと呟いた。
人気者は辛いよ!
(朝から騒がしいわねぇアンタの処…)
(なぁネイサン、オートロックとか、せめて南京錠とか、その他鍵を十個は扉に付けてもらいたいんだけどよ…)
(ダメよ。ここは保健室なんだから。そんなガッチリしてちゃ怪我した生徒が来れなくなるでしょうが)
(…………泣きそう)
―――――
ジキル様、リクエストありがとうございました!!
学校小説とリクにあったのですが、学園の話でよろしかったのでしょうか…?
間違っていたらすみません><
この度はリクエストありがとうございました!!