甘い香りに目を覚ます。時計を見れば午前十時。そろそろ彼が起こしに来る時間だ。
それまで寝ているフリをしよう。そうして起こしに来た処を襲ってやろう。
彼の驚いた顔が目に浮かぶ。
そんな事を考えていると、カチャっと扉を開ける音が聞こえた。
来た、なるべく笑わないように寝ているフリをする。

「臨也、朝だぞ起きろ。今日は昼からお客さんが来るんじゃないのか」

まだ、まだだ。身体を揺すりに来た時に抱きついてやろうと思っていたのだが。
なにやら普段聞かないはずの、バギィイ、という何かが壊れる音がした。
え、と臨也は恐る恐る目を向けると彼、静雄の持っているフライパンがあり得ない方向にねじ曲がっていた。
これはマズイと一瞬で思った臨也は布団を跳ね除け勢いよく飛び上がった。

「シズちゃん!ごめん!起きてるから!フライパンが違う物になってるって!」

「お前がさっさと起きないからだろ。飯冷めるから早く食えよ」

「あ…うん…」

一応静雄は臨也の奥さんである。普段全く料理をしない二人。
それが共に暮らす事になって、静雄の方から自ら料理をすると言い出したのだ。
最初の頃は良く食器を壊していたものだが、今となってはそんな事は滅多にない。
時折臨也のおふざけに調理器具が犠牲になる事もあるのだが。

「あ、今日の朝食はフレンチトーストなんだね」

「今日のは…上手く出来たと思う」

「何言ってんの。シズちゃんの料理はいつも美味しいよ」

静雄の顔は真っ赤になり、慌てて食器を洗うと言って台所へ戻ってしまった。
褒められるとすぐ照れて隠れてしまうのは一緒になってからすぐに分かった事だった。
可愛いなぁ、なんて臨也はニヤニヤしながら朝食を済ませた。

午後からは臨也は仕事があるため、静雄はその間家を出る。
夕飯の献立を考えながら歩くいつもの場所。今と昔ではまるっきり違う場所に見える。
立ち寄った本屋で料理の本を立ち読みする。最近はずっと同じような食事ばかりだ。
料理のレパートリーも増やさないと彼もきっと飽きてしまうだろう。
何冊かパラパラと流し読みし、気に入った本だけを買いまた歩き出す。
何かデザートもあった方がいいだろうか。
そう思って近くのコンビニで大好きなプリンを買う。時計を見ればもう夕方の五時。
そろそろ帰って夕飯の支度をしなければ。

家に戻れば臨也はお気に入りの椅子に腰掛け、机に伏せて眠っていた。
余程疲れていたのだろう。掛布団を一枚掛けてその場を後にする。
今日はシチューにしよう。コトコトと煮込んでいると、奥から眠そうな声が聞こえていた。

「ふわぁ…あ、おかえりシズちゃん。今日のご飯はなーに?」

「おはよう臨也。今日はシチューだ。ホワイトシチュー」

「お、すっごい良い匂いするね。美味しそう。早く食べたいなぁ」

「もうちょっと待て」

「んー、我慢出来ないよー。先にシズちゃんを食べてもいい?」

「……脳天からこの熱々のシチュー掛けられたいのか?」

「すみませんでした」

調子に乗るとすぐ悪いクセが出る臨也を、静雄は低い声で黙らせる。
臨也の調子に合わせるといつまで経ってもご飯が食べられない。
静雄は臨也と一緒にご飯を食べたいのに、臨也はいつまで経ってもそれを分かってくれない。
それが彼の唯一の困った処だろう。

「ほら、大人しく座ってろ。デザートも買ってきたから」

「え、デザート?もしかしてプリン?」

「おう」

「シズちゃんプリン好きだもんねぇ…本当可愛いなぁ」

「うっうるせぇな!」

昔のような人間離れした喧嘩はもうしなくなった。だって相手は大好きな人なのだから。
傷付けたくない。ずっと愛していたいから。

「…これからも一緒に居てね、シズちゃん」

「あっ、あたり前だろ!…だって、好き、だし、よ…」

「俺も好き。いや、愛してるよ」

「っあ、…ぉ、れも、…あ、ぁいし、て、る…」

男のくせに本当に可愛いなぁ、と臨也は自分よりも大きな静雄の身体を抱きしめた。



これからも愛し続けると、僕は誓い、君の為に笑おう

―――――
匿名希望の方、リクエストありがとうございました!
来年の臨静の結婚式には私は果たして呼ばれるんでしょうかね?(^o^三^o^)
無理か…(´Д` )
いや早すぎないと思いますよ!彼らは早く結婚したらいいんです!
内容は結婚式後か同居中だと思っていただけたらなと思います!

リクエストありがとうございました!!



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