同じ顔をする彼を破棄するのもなんだか心許なく、引き取ったはいいが…。
はてさて、これは一体どうしよう。
「おーい、クロー、離してくれよぉ〜」
「イヤだ、と言ったらどうするんだ?」
「え、…いや、その……まぁ、いいか…」
H-01と当初名付けられていた彼に“クロ”と言う名前を付けたのは、虎徹だ。
『黒い俺だから、ブラックタイガー。本当はブラックタイガーっていう海老がいるからエビにしようと思ったんだけど、それはちょっと可哀想な気がしたから、ブラックタイガーのブラックから取って、クロって言うのはどうだ?』
猫のような名前。最初は嫌だったけど、でも愛着が合って良いかもしれない。
クロは胸の奥にある不思議な気持ちに胸を抑えた。
これはきっと嬉しいという気持ちなのだろう。それを与えてくれたのは虎徹である。
クロにとって虎徹は親のような存在だ。
親に甘えたいという気持ちから、クロは先程から虎徹に抱きついていた。
当の本人は全く気が付いていないのだが。
「…クロ?お前もしかして眠いのか?」
「眠くは無い」
「あ、お前アンドロイドだもんな…眠いとかそういう感情は無いのか…」
「…コテツは、オレが迷惑か?」
「へ?迷惑だなんて思ってねーよ」
「本当か?」
「本当本当。嘘じゃないって」
まるで不安がっている子供だ。どことなく相棒のバーナビーに似ているような気がする。
見た目が三十後半のオジサンで中身が幼児の男を相手に、何をしているのだろう。
相手は人間じゃないのに。自分はこうもお節介焼きなのかと思ってしまう。
「…そろそろ飯作るか。今日はバニーの奴が来るんだ。手伝ってくれるか?」
「……オレ、アイツ嫌いだ」
「え?」
「オレのコテツを取ろうとする」
「取るって…俺は物じゃないんだぞ?」
「アイツはコテツを独占しようとする。オレもコテツを独占したい」
「っだ、…う、…どうしたもんかな…」
そういえばクロは出会った当初からバーナビーを嫌っていたような気がする。
バーナビーもバーナビーでクロをあまり良くは思っていないようだったし。
一体どうしたものだろう。
「じゃあ、明日は一日中お前と一緒にいてやるよ。バニーには…まぁ、なんとか言っておくから」
「…本当か?嘘付いたら襲うぞ」
「嘘付いた時の代償がデカイのは気のせいか…?」
本当にアンドロイドなのかと疑いたくなるぐらい、クロは人間染みている。
同じ顔の男に父性が芽生えるなんておかしなことだ。
でもこれはこれで楽しい毎日なのかもしれない。迷惑だなんて思った事はない。
「…けど、俺はクロが居て良かったって思うな」
「…どうしてだ?」
「ほら、俺能力が減退してんだろ?俺の能力が完全に消えた後、お前が俺の代わりにワイルドタイガーになったりとか出来るかもなーって、思ってさ」
「…という事は、その後オレはあの兎ちゃんとコンビを組むことになるのか?…絶対に嫌だ。オレはコテツと一緒に居る」
「…お前さ、アンドロイドのくせに我儘だよな…ったく、最新の技術ってわっかんねーなぁ!」
頭をガシガシと掻きまわす。キョトン、とこちらを見つめるクロの視線に虎徹は少し困ったように笑う。
彼は能力が無くなった時の自分の変わりなのかもしれない。そういう運命でこうして創られたのかも知れない。
そうだとしたら、最初から自分の能力は消える宿命だったのだろうか。だとしたらなんて残酷なのだろう。
しかし今はそういった事は考えないようにしよう。今ある命を精一杯生かす事。
それが今の自分にできる事。
「…さーて、炒飯作るぞー!」
「海老は入れるか?」
「おうよ!つーか、お前海老好きだなー!」
「炒飯は初めて食べたからな。得に海老が好きだ」
「本当、俺とは全然似てねーな!可愛いやつ!」
「コテツの方が可愛いとオレは思うぞ」
「っだ!!」
我儘猫と鈍感主
結論、どちらも愛らしいのです!
――――――
エビマヨ!!
我が家のエビちゃんは虎さんにだけ甘える猫です。そして素直。