恋に落ちる、というのはこういう事なんだろうな、と思った。
初めはお節介なおじさんだの、煩い人だの、古い男などと思っていたのだが。
二人で過ごす毎日に、それが優しさなんだと知ったのはずっと後の話。
あの頃は僕はまだ幼い子供だったのだ。
ジェイクを倒して、彼の優しさに触れて、氷で包まれた僕の心をあの人は優しさで溶かしてくれた。
それから気付いたら目で彼を自然と追うようになっていた。
笑っている顔が好き。あの人が笑っていたら僕も自然と笑えるようになった。
今までは復讐しか見えていなかったから、今はなんて世界は広いんだろうと思えてくる。
それも全て彼のおかげであって、僕は彼に感謝しきれない。
ずっと守られてきたから、今度は僕が彼を守ろう。頑なに僕は自身に誓った。


ジェイクを倒しても彼、虎徹さんの怪我はまだ治ってはいない。
いくらハンドレットパワーを使ったとしても完治する訳ではないから、僕は虎徹さんの怪我の様子を見る為に彼の家を訪れていた。

「虎徹さん、怪我…どうですか?」

「あー、もう完璧だって!ほら!!」

「…へぇ、じゃあ…ここは?」

「っだ!そこは、治ってないんだって…っ」

「貴方さっき完璧って言ってませんでした?」

うう、と虎徹さんは言葉を濁らせる。完治もしていないのに、じっとしているのはしょうに合わないとかで油断すると現場に現れてヒーロースーツを着るものだから僕も気が気で無い。
大きな子供を相手にしているようで少し大変だ。
ふっと笑った後小さく溜息をつくと、虎徹さんはニコリと笑っていた。

「やっぱさ、お前、そうやって笑ってる方がずっといいぞ」

「え…?」

「四六時中しかめっ面してるより、取材の時の笑顔より、今の顔の方がずっといいと俺は思ったな」

「………」

この人はきっと意図も無くこんな事を言っているんだろう。
その言葉に僕がどれだけ歓喜しているか、貴方はきっと知らない。
屈託のない笑顔で虎徹さんは笑う。今度はその顔が悲しみで歪んでしまわないように、今度は僕が守ろう。

「…僕も」

「ん?」

「僕も、虎徹さんは笑っている方が似合う、と…、思い、ます…」

「え、あ…うん、ありがとうなバニー」

お互い照れ臭くなって二人してそっぽを向く。ああ、好きだな、と思う。
僕は本当にこの人の事が好きなんだ。
きっと虎徹さんも僕の気持ちに気付いている。時折、そういう素振りを見せる事があるのを僕は知っている。
言ってしまっても、いいだろか。でも。拒絶されたら、と思うと足が竦む。
なんて臆病なんだろう。僕は臆病で弱虫で、甘えてばかりのダメな子供だ。

「なんか、バニーに“虎徹さん”って呼ばれるの、慣れねーな、はは」

「…そうですか?」

「なんかこう…むず痒いっていうか…、いや、でも嬉しいんだぜ?本当だからな!」

「知ってますよ。僕も、早く呼べば良かったかなと思ってます…」

名前を呼べば胸が温かくなる。それと同時に切なく苦しくなる。
ああ、これが恋なんだな。これが、愛というものなんだ。
照れ臭そうに頭をガシガシと掻いている虎徹さんの身体を思い切り抱きしめた。
精一杯の愛情を持って、僕は彼を抱きしめる。こんな細い身体にどれだけ苦痛をため込んだのだろう。
いつも明るく振る舞っているけど、虎徹さんだって人だ。辛い時も苦しい時も悲しい時もあるだろう。
虎徹さんが僕の心を癒してくれたように、僕も虎徹さんの心を癒してあげられたらいいんだけど。

「…今度は、僕に貴方を守らせてください」

「バニー…?」

「独りで抱え込まない様に。貴方を覆う闇は全て僕が振り払います。僕は、一人の人として、ヒーローの貴方ではなく、鏑木虎徹を、守りたいんです」

そっと抱き返してくる腕に、僕も抱きしめる力を込めた。
小さく震える身体。貴方がずっと笑っていられるように、僕は貴方の隣に立ち続ける。
例え彼の左手にある指輪がそれを許さなくても、彼が生きている間は僕に守らせて。
どうか、どうか、お願いです。
この胸に抱く想いは告げない替わりに、僕にこの人を守らせて下さい。

(…それぐらいなら、許してくれますよね…?)



空の上にいる彼女に、僕はそっと囁いた

―――――
兎の決意(`・ω・)キリッ←
叶わない恋だとは知っているから虎には言わないけど、それを遠回しに守るという形で傍に居ようとしている兎。
貴女から彼を奪うつもりはないけど、生きている間だけは傍に居させて欲しいと友恵さんに願う兎の話。

結局のところ私は片思いの話が大好きなのです。


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