酒に酔ってしまうと、人は心の内に思っている事をぽろりと言ってしまう事がある。
虎徹は今まさにそんな状況下におかれていた。

「貴方が好きです」

仕事終わりにたまには二人で酒を飲もうと、虎徹のお気に入りのバーで軽く話をしながら飲んでいた時の事。
酒に多少は強い虎徹も酔い始めた頃、突然バーナビーが言った。

「貴方が好きなんです、虎徹さん」

「へ?ああ、…うん。俺もバニーの事好きだぜ?」

するとバーナビーは眉間に皺を寄せ苛々とした様子で声を張り上げた。

「僕の好きは、虎徹さんの好きとは違う!」

瞳がうるうると潤んでいた。顔も少し赤いから酔っているのだろう。
普段の彼はこんな事言わない。言うはずが無い。
ハンサムでカッコよくて、頭もよくて女性にモテる彼が、仕事の相棒で一人娘がいるオッサン相手に好きだなんて言うはずがないのだ。

「…バニー?酔ってるのか?」

「…酔ってません」

「酔ってる奴は決まってそういうの。…ほら、酔ったんならもう帰るか?」

「虎徹さん…っ!僕はまだ…!」

「ちょ、もうこんなフラフラして…お前、酒弱いのか?」

彼の言葉を遮るように虎徹は無理矢理バーナビーの身体を支えながらバーを出た。
夜風が凄く冷たく感じる夜だった。月が綺麗に見える。
一人で歩けないほど酔っているバーナビーを、虎徹はおぶって彼のマンションへと向かい歩きだす。

「…虎徹、さん…」

「んー…なんだ?どうした?あ、今日のは俺のおごりだから、金の事は心配するなよ?」

「…好き、です…」

「…………」

首に回してるバーナビーの腕の力が強くなる。うわ言のようにバーナビーは虎徹に告白する。
きっと言っている事は本心なんだろう。朝になったら全部忘れてる。
忘れていたら、何もなかったように接してやるのが優しさだろう。
だけど今だけは彼の告白に応えてやるべきなのだろうか。
バーナビーの虎徹に対する思いは、虎徹も前々から感じてはいた。
始めは、愛情に飢えた彼が求めたのがたまたま近くにいた自分だっただけの事だと思っていたのだが。
しばらく経つうちにそうではないのだと知った。
彼は恋愛感情で虎徹を求めていた。そうさせてしまったのはきっと自分なのだろう。

(俺、コイツとの接し方…間違えたのかな…)

勿論虎徹もバーナビーの事は好きである。それはきっと恋愛感情としての好きであり、相棒としての好きであり、親の視点から見ての好きなんだろう。
必死に訴えるバーナビーの告白に、虎徹は応えたいと思っていた。
だけど、応える事が出来ない。

「…こてつ、さんは…?」

「ん…?」

「こてつさんは、僕のこと…すきですか…?」

「…うん、好きだよ」

彼の将来を思うと、自分の本当の気持ちが言えない。
だって自分は男で、きっと彼より先に死んでしまう。
家族も作ってあげられない。子供も抱かせてあげられない。
本当の家族を、自分は彼に与えてやれないのだ。
そう思うと、身を引いたほうがいいのだと思うのが当たり前だと思う。
バーナビーの住んでいるマンションへと辿り着くと、虎徹は慣れた手付きでバーナビーの部屋まで向かう。
きっと彼も目が覚める。こんな歳を食った男のどこが好きだったんだろうと。
本当の恋愛をしていないから、道を間違えているだけなんだ。
それなら正してやるのが相棒として、大人として、人生を彼よりも長く経験している自分の役目だと思う。
それに、彼に道を迷わせてしまったのは恐らく虎徹である。虎徹は責任を感じていた。
彼は落ちてはダメな人間だ。彼ならまだ引き返せる。

「ほら、バニーちゃん。家、着いたぞ。俺の背中じゃなくてベッドで寝ような?」

だがバーナビーは嫌だというように虎徹のベストを掴んだまま離さない。
成人はしているが、彼はまだ子供だ。親への愛と、恋愛感情の愛を間違えているだけ。

「バニー…」

「…虎徹さんが傍にいてくれなきゃ、嫌です…」

「我儘言わないの。明日も仕事があるんだから、な?」

「…なら、手を握ってて下さい…そうしたら、ちゃんと寝ます…」

「りょーかい…」

一人娘をあやしていた時の様に、虎徹はバーナビーの頭を優しく撫でながら手を握る。
ブロンドの美しい髪。一本一本が絹のように綺麗だ。
エメラルドの瞳は伏せられているが、あの瞳も好きだ。
全部全部好きなのに、叶わないこの恋が辛い。

「生まれ変わったら、なんて…馬鹿げてるにもほどがあるか…」

生まれ変わって女になったら、そうしたら、なんて。愚問だろう。
ああ、早く夜が明ければいいのに。



愛おしさを込めて眠る彼の手を強く握った。

―――――
兎→(←)虎みたいな…。
兎は虎さん大好きだけど、虎さんは兎の将来を思って身を引いてるお話。

切ない話が好きなのに全く書けない。


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