もうすぐハロウィンだなぁ、と横に居た上司が呟いた。
そう言えば最近街の装飾がカボチャやらコウモリなどになってきたなぁとは思っていたが。
そうか、ハロウィンなのか。と、静雄は周りをキョロキョロしながら歩く。

「静雄は今年のハロウィンはどうすんべー?」

「…何がっすか…?」

「いや、仮装して恋人に『トリックオアトリート!お菓子くれなきゃ悪戯するぞ』ってやりに行かないのか?」

「…俺、もう24っすよトムさん。流石に…それは…」

「あれ、今時のカップルってのはそういう事しねぇんだなぁ…」

する訳ないだろう。子供じゃないんだし。ましてや自分が仮装して恋人に会いに行くなんて…恥ずかしすぎる。
ハロウィンは特に予定は入れていないから、家でのんびり過ごそう。

(それに、アイツ仕事があるって言ってたしな…)

会いに行った所で家に居ないのでは意味がない。合鍵は持っているけど勝手に家に入るのはなんだか気が引ける。
とりあえずは予防対策としてお菓子は用意しておこう。彼と恋人になってから油断出来ない毎日を送っている為、静雄は仕事が終わったら安いお菓子でも用意しておこうと心に決めた。



ハロウィン当日。静雄はのんびりと過ごしていた。恋人の妹達がお菓子をくれと早朝からやって来た事以外は時に何事もなかった。
このまま何事もなくこの日が終わってくれればいいのに。
だが静雄のそんな願いは打ち砕かれる。突然鳴ったインターホン。
誰だろうと扉を開けると。

「ヤッホー!シズちゃん、トリックオアトリート!お菓子くれなきゃ悪戯するぞっ!!」

…恋人らしい存在があきらかに魔女のような真っ黒いヒラヒラしたドレスを着て魔女帽子を被ってどうみても箒ではなくモップのような物とデカイ荷物を持って笑顔で佇んでいた。
静雄は現実から眼を背ける為にゆっくりと扉を閉めた、が。

「ちょ、ちょっとシズちゃんー!無視って酷いよね!俺こんな格好して新宿から池袋まで来たんだよ!リアクションの一つや二つして欲しいんだけど!!」

「…どうリアクションしろっていうんだよ。こちとらテメェのその格好にドン引きしてんだ。さっさと帰って着替えろ」

「本来この格好は俺じゃなくてシズちゃんがするべきなんだけど、シズちゃんは俺が言っても絶対着るわけないじゃん?」

「ああ。断固拒否する」

「ほらね!だから先に俺が着てればシズちゃんも着てくれるかなっていう俺の考え!どう?」

「浅はかな考えだったな臨也。そんなもん見せられて着る訳ねぇだろ。むしろ着る気が失せた」

はぁ、と溜息を吐くと静雄はまた扉をゆっくりと閉める。
だが臨也は意地でも入りたいのか扉の間に挟まって閉まるのを防ぐ。
呆れた。どこまでしつこいんだコイツ。

「…分かった。ご近所に迷惑だから一応入れ。騒いだら捨てるぞ」

「これが噂のシスデレ!わーい!お邪魔しまーす!!」

なんでコイツこんなテンション高いんだろう。本当、ドン引きする。
静雄は激しく他人のフリをしたかったがそれはもう彼を家の中へ招き入れた事により無意味になった。

「ああ、そうだシズちゃん」

「なんだよ」

「トリックオアトリート!お菓子あげるから悪戯させて!!」

「お前、言ってる事ゴチャゴチャなの、分かってるか?」

「ならせめて、せめて俺とお揃いの魔女の格好してくれないかな!」

「つーかそれが目的だろ、テメェ」

「まぁね。流石シズちゃん!だからさ、お願いだからこれ着てほし…」

「着ねぇよ」

「ですよねー!!」

頭が痛くなる。おかしい。本来の彼ならこんな馬鹿げた事は絶対にやらないはずなのだが。
彼のプライドが許さないと思うのだが…、一体どうしたのだろう。
まさかハロウィンだと浮かれてこんな事をしている訳じゃあるまいし。
モップと一緒に持って来た荷物は静雄に着せる魔女の洋服一式と、お菓子なんだろう。
わざわざやって来てくれたのだから、たまには乗っかってやるのも悪くない。

「臨也、何かお菓子くれたらソレ、着てやるよ」

「…どうしたのシズちゃん。熱でもあるの?」

「テメェが言い出したんだろうが!早くしないと着ねぇぞ!!」

「わぁー!?ごめんねシズちゃん!えっとね…じゃあまず飴とクッキーとマフィンとプリンとチョコと…とりあえずこれぐらいで着てもらえる?」

「駄目だ。そこにある菓子全部よこせ。じゃないと着ない」

「そう言うと思った。いいよ、全部あげる。元々シズちゃんの為に買ったお菓子だからね」

臨也はバックを逆さまにして床にお菓子をばら撒く。様々な種類のお菓子がバラバラと散らばり静雄はふっと笑った。
静雄は甘い物が好きである。だからこういう物には眼がない。
そこで臨也がジッと此方を見ている事に気付く。

「ああ…、大丈夫。着るって。そんな顔すんなよ」

「いや…まさかシズちゃんがこんな簡単にデレるなんて思わなくて…」

「うるせぇな。たまにはいいだろ?俺達は恋人同士なんだしよ…」

「シズちゃん…!ああもう、シズちゃんってば最近飴と鞭の使い方上手くなったよね。俺もうメロメロ!」

「気色悪ぃんだよ。今日はハロウィンなんだろ?少しぐらいお前のワガママに付き合ってやるよ」

「えっ…!!じゃあこのままベッドインっていうのは…!」

「却下だ」

あからさまに臨也は肩を落とす。魔女の格好をしたとしても、二人とも魔女だ。
一体どんなプレイがしたいんだろうコイツ。最近何を考えてるか分からない。
気持ち悪さは増したような気がする。恋人になる前はクールな男だと思っていたのだが…。
人って変わるんだな、と静雄は思う。
恋人同士になって始めてのハロウィン。ちょっとぐらい浮かれてもいいだろう。
静雄は渡された魔女の洋服を見て、ふっと笑った。

Witches' Halloween

(わー!シズちゃん、やっぱり可愛いよ!うんうん、シズちゃんにはミニスカタイプの魔女が一番似合うと思ったんだよねー!流石俺!ちょ、シズちゃん写メ撮らせて!待ち受けにするから!)
(……数分前の俺を激しく殴りたい…)

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ハロウィン話!臨也が予想外に気持ち悪くなった…何故だ…。
静臨っぽいが、臨静です。言い張る。

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