*22話後辺り
*病虎


OK?↓



か細く自分を呼ぶ声が聞こえた。モニターから声が聞こえた方へ足を向ける。
ベッドの上にはシーツに包まった男が一人。
彼は数日前まで無実の罪を着せられてボロボロになるまでこの街のヒーローから逃げていた。
体力が尽き、倒れていた所を助け自分の家へと連れ込んだ。
罪無き者をあんな大人数で責め立てるとは、この街のヒーローはどれだけ品が落ちてしまったのだろう。
本当の正義も悪も分からないとは。
ユーリはマグカップに温かいミルクを入れると声の主のもとへ向かう。

「どうしました、虎徹さん」

「…ゆめ、みた」

「どんな夢ですか?」

「みんながおれをのこと、ころそうとするゆめ」

「それは酷い」

「おれがひとごろしをしたって、いうんだ」

「酷いですね。貴方は何もしていないのに」

「アントニオも、バニーも…みんなおこってた…。おれはやってないっていっても、しんじてくれなくて…おれ、だれもころしてないよ」

「それは悪い夢です。そんな夢はまた眠って忘れてしまいましょう?」

虚ろな目をする彼は、心が壊れてしまったのだ。
今まで大切に築き上げてきたモノが、一瞬にして崩れ去ってしまったのだから。
始めの頃は、まだ心があった。だけど、時間が経つにつれ、彼の心はガラガラと崩壊していった。
親友、仲間、パートナー。誰も彼を思い出しはしなかった。
彼らが偉大なる虎を思い出した後はもう時すでに遅し。彼はもう、どこにもいなくなってしまったのだ。
いつまでも終わらない苦痛な夢を毎晩毎晩見続ける。

「…ねむくない。ねたらまたあのこわいゆめ、みちゃう…」

「私が傍にいますから、大丈夫ですよ」

「…ユーリは、おれのことおぼえてる?」

「もちろん憶えていますよ。貴方は鏑木・T・虎徹。市民を守るヒーロー、ワイルドタイガー」

ユーリがそう言えば虎徹はふんわり笑ってまたベッドに横になった。
彼はユーリの家に来てから一度も外に出ていない。
外には警察が自分を捕まえに来ているから嫌だと言う。サイレンの音が聞こえるだけでガタガタと全身を震わせ怯える。
今までとは違い、今の彼の世界はこの部屋だけ。
こんな状態の彼を見たら、ヒーロー達はどう思うだろう。
彼を壊してしまったのは彼らだ。今更謝られても、彼はもう元には戻らない。

「私は、貴方の傍にいますよ」

「ん…」

頬を撫でれば、猫のように自分の頬をすり寄せてきた。
本当はこの人はこんなにも弱い人間なのだ。独りでは生きていけない。
可哀想な人。
虎徹がまた眠りについたのを確認すると、ユーリはゆっくりと出掛ける支度を始めた。

「…さて、彼を壊してしまった罪を、償わせなければ」

タナトスの声の許に裁きを。愛おしい彼の為、彼を壊す者は全て壊そう。
青白い炎がユラリと揺らめいた。



全ては君の為

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月病虎が書きたくなったので書いてみた!
それにしても短い。

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