ふと目に入った大きなダンボール。なんて変哲もないただのダンボールなはずなのに、どうも気になる。
幸いこのダンボールの持ち主はこの場にいない。
少し見るだけなら良いだろう、とバーナビーはもう封が開いているダンボールの中を覗いてみた。
中には大量の手紙。それもファンレターだ。
そういえば、最近は彼も成績が良くて人気になってきたと言っていた気がする。
自分に比べれば半分もないくらいのファンレター。だけど彼は一つ一つ丁寧に読んでいるのだろう。
嬉しそうにファンレターを読む彼の姿が想像出来て、思わずクスリと笑ってしまった。
その中で一つ、目に入るものがあった。それは…−−



「見て見てバニーちゃん!俺のファンレター!こーんな届くようになったんだぜ!」

「…それは良かったですね」

「俺、ファンレターは家に帰って読むんだよなー…あー、早く仕事終わんねーかなー!」

「虎徹さんが書類に手間取らなければすぐ終わりますよ」

あのダンボールに入っていたのは、赤いアネモネ。
ただの赤いアネモネだ。だけど、問題はその花言葉。
赤いアネモネの花言葉は『君を愛す』
虎徹自身はきっとその華の花言葉など知らないだろう。
だが、バーナビーは沸々と湧き上がる嫉妬を抑えきれなかった。

(またこの人は、僕の知らない処で告白なんかされて…)

この人を好きになっていいのは僕だけなのに。
力強く自分の拳を握る。そんなの我儘だって事は重々承知しているのに、どうしても独占欲が溢れ出して止まらなかった。
一方虎徹はダンボールを抱えて嬉しそうに笑っていた。
何も知らないでニコニコ笑って。ああ、あの笑顔を自分のモノだけにしたい。

「虎徹さん、今日虎徹さんの家に行ってもいいですか?」

「あ?いいけど…散らかってるぜ?」

「それはいつもじゃないですか」

「酷いな!そんなサラリと言わなくても…」

しゅん、と落ち込む様子の虎徹にバーナビーはクスリと笑う。
彼を独占していいのは自分だけだ。他の人間になんか奪わせない。
沸々と湧き上がる独占欲に、バーナビーは自身の身体が侵食されていくのを感じた。



仕事が終わり、二人で虎徹の家に向かう。サイドカーに乗る虎徹は、大事そうにファンレターが入ったダンボールを抱えてニコニコと笑っていた。
あんなに嬉しそうに笑って…。苛々する気持ちを抑え、バーナビーはアクセルを強く踏み急いで虎徹の家へ向かった。
家に着くや否や虎徹はダンボールの中のファンレターを読み始める。
勝手に寛いでていいから、なんて言われてもどこでどう寛げばいいのやら。
とりあえず冷蔵庫から自分の分と虎徹の分のビールを取り出してテーブルの上に置く。
ふと目に入るダンボール。あんなに人気がなかった彼も、今やこんなにファンが出来たのか。
恋敵がたくさん出来たようで苛々する。

「あれ、これ…なんだ?」

虎徹の声が上がる。何だろうとそちらを見れば彼はあの赤いアネモネを持っていた。

「アネモネですよ。知らないんですか?」

「俺、華は詳しくねーんだよ。…それにしてもよく枯れなかったな…」

「特殊な加工でもしてあるんじゃないですか?…ねぇ、それはもういいでしょう?そろそろ…」

「まぁ、待てって。花瓶とか家にあったかな…」

アネモネを大事そうに抱えながら花瓶を探す虎徹に、バーナビーはとうとう痺れを切らしてしまう。
虎徹からアネモネを奪うと、そのままグシャグシャとその華を潰してしまった。
それに驚いた虎徹は怒りの声をあげる。

「おいバニー!なんて事するんだよ!せっかく…」

「せっかく?何ですか?どうせ貴方の事だからアネモネの花言葉なんか知らないんでしょうね」

「だから、俺は華は詳しくねーんだって…」

「アネモネの花言葉は『君を愛す』告白されたんですよ、貴方。虎徹さんを愛していいのは僕だけなのに、こんなに簡単に告白なんかされて…!少しは警戒したらどうなんですか!」

自分勝手だと思う。これはただの自分の我儘だ。
だけど、自分の気持ちがドロドロと醜い嫉妬に侵食されていくのが我慢できなかった。

「バニーちゃん、それ…嫉妬?」

「いけないですか?」

「んーん、むしろ嬉しい。俺、ちゃーんとお前に愛されてんだなーって思った」

ニヤニヤと笑う虎徹。この人は僕の気持ちを理解しているんだろうか。
こうやって自分だけが彼を好きみたいで苛々しているのに。

「そんな怒るなよバニーちゃん」

「誰のせいだと思ってるんですか!」

「んー…俺?」

「分かってるなら…!」

「抱かせろって…?はは、バニーちゃんもまだまだ若いよなー」

ほくそ笑む虎徹にバーナビーはうっ、と言葉を詰まらせる。
大人の余裕とでもいうのだろうか。それにまた怒りが溢れた。

「いいぜ?抱かせてやるよ」

「なっ…!」

「何驚いてんだよ。今日はお前の気が済むまで相手してやるって」

子供扱いされた。虎徹はバーナビーにニヤニヤと笑いかけるとそのままベッドルームへ向かった。
誘われているのにそれに乗らない手はないのだが、如何せんこちらとしては怒っているのでなんだか腑に落ちない。
中々やってこないバーナビーを虎徹がどうかしたのかとベッドルームから顔を出した。
今行きます、と言うとバーナビーは足早に虎徹がいるベッドへと向かった。
既に全裸でバーナビーを待ち構えていた虎徹は自分からバーナビーへと寄り添った。

「そんなに怒んなくったっていーじゃん。たかが華じゃねーか」

「それでも許せないんですよ、僕は」

「俺はバニーのだから、他の誰のモノにもならないって」

「そんな事分かってるんです!でも、それでも安心出来ない自分がいて…」

「はいはい、バニーちゃんは人一倍独占欲が強いならなー。大丈夫、大丈夫。俺はバニーのモノだよ」

虎徹はぎゅ、っとバーナビーを抱きしめる。彼の心臓の鼓動が聞こえる。
彼を生かすも殺すも自分だけであって欲しい。他の誰にも渡したくない。

「虎徹、さん…っ」

「あ?んァっ…っいきなり、ガッつくなよ…」

「好きにしていいと言ったのは貴方でしょう?」

「そうだけどさ…ん、ァ…、ビックリするって言うか、ひンっ、あ…っ」

身体中にキスマークを付ける。きめ細かい浅黒い肌に自分の証を刻める事にバーナビーは歓喜した。
頬を赤く染めて恥じらいでいる虎徹にバーナビーは小さく笑う。
こんな姿を見せていいのは自分だけ、他の誰にも見せてやらない。

「虎徹さんは、僕のモノ、ですよ…っ」

「あっ、ァあ…っだ、分かったって…ッ、ひぅ、う…ぁ、あ」

「ん、っ…!痛っ…ちょっと、虎徹さん…」

「はは…、お返し、…ィ、俺ばっか…ずりぃだろ…?だから…ぁ、バニ、ぃ、も…俺のモノ、な?」

虎徹はバーナビーの肩にキスマークを残した。
クスクスと笑う虎徹にバーナビーもまたクスリと笑った。
バーナビーは己の指を虎徹の秘部へと動かしそのまま中へと入れた。
ぐちゅぐちゅと掻き回してやると虎徹もその動きに応えるように喘ぎ声を上げる。
シーツをしっかりと握り締める虎徹の手の上に自分の手を重ね、逃がさないように絡み合わせる。
ある程度解れた後に指を引き抜いて、ヒクヒクと物足りないようヒクつく虎徹のそこへ避妊具であるコンドームを被せた自身を突き立てた。

「う、ぁあ、ぐっ…あっあ、んあァ…!」

「ふぅ、く、…う、っ…」

「くぅゥ…、あん、ん…はは、バニィの、デカ…、ぁ、お腹、いっぱい…」

「そのまま、…僕の子供でもっ、貴方が産んでくれたら…いいんですけどねッ」

「無茶…言うなって、ふぁ、ん…っ!」

子供が出来たら貴方はもう僕から離れられないでしょう?
なんて、そんな事は言えなかった。
互いに男児であるし、無機質なゴムに阻まれて中には出せない。
だけど繋がる事の嬉しさはある。大好きな人と一緒になれる事に、恐怖なんてない。

「あっ、こて、つ、さん…ッ!」

「ぁあ、ァ、あ…!ば、なびィ…!んっぁあああッ!!」

その日は一日中繋がったままだった。どこにも行かないで欲しかったから。
傍にいて欲しかったから。
朝日が差し込む部屋に二人で寄り添う。

「本当、バニーちゃんは独占欲強いよなー…。見て俺の身体。キスマークだらけ。華相手に嫉妬しただけでコレだぜ…」

「でも光栄でしょう?こんなハンサムな男に身体中にキスマークをつけられて」

「その自信はどこからやってくるの全く。俺だってたまには嫉妬だってするんだぞ?」

「へぇ…?」

「バニーちゃんには若いファンが多いから俺心配で…。ほら、公にバニーは俺の彼女だーっ、なんて言えねーし…」

そこでバーナビーの眉間がピクリと動く。

「待ってください。僕が貴方の彼女?貴方が、僕の彼女の間違いでしょう?」

「は?だって俺、女じゃねーけど」

「僕も女じゃないですよ。むしろ貴方が抱かれる方なんだから虎徹さんの方が彼女側なんじゃないですか?」

「はぁー?…いや、待て待て、ややこしくなるからここは二人とも彼氏という事にしよう。な?」

「な?って…貴方が言い出したんでしょうに…はぁ」

昨日の自分が馬鹿みたいだ。彼は自分の事をキチンと思ってくれているのに。
嫉妬もしてくれるなんて、思われてるんだなと改めて感じた。

「あっ、そうだ。昨日のファンレター、全部読んでねーや…」

「そんなの後でも平気でしょう?今日はこのまま一緒に居たいです」

虎徹は身体に抱き付いて離れないバーナビーに呆れつつも嬉しそうにふっと笑うとまたベッドへと戻った。



今日と言わず、これからもずっと一緒に居てやるよ。

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なんかまたリア充な話になってしまった。
アレ、おかしいな…。
赤いアネモネ以外にも『愛してる』って意味の花言葉はたくさんあるんですが何となくアネモネにしてみました^^

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