ブルックスさん家のバーナビー君を引き取って約一カ月。
俺達の関係にあまり進歩はない。いや、俺はこれでも頑張ってるんだよ!
アイツが中々心を開いてくれなくて…。
しかも俺がバニーと親睦を深めようとする時に限って出動要請が掛る。
もう仕組まれてるんじゃないかと思うぐらいタイミングが良い。

「はぁあ…」

今俺の家には誰もいない。バニーは今学校に通っている時間だから、家には俺しかいない。
懐かしいよなー。俺も昔というかつい最近までヒーローアカデミーに通ってて…。
そこでアントニオと出会ったんだけど。昔はアイツとは殴り合いの喧嘩ばっかりしてたなぁ…。
昔の思い出に浸っていたらまたPDAから出動の連絡がくる。
今日はアイツが帰ってくるまで待ってようと思ったのにな…。

「さっさと終わらせて、夕飯作らないとな」


♂♀


犯人を捕まえて一件落着。俺もまぁまぁポイントは稼いだし、怒られる事はないだろう。
早く帰らないと、と思っていたら上司のロイズさんから会社に戻るようにとの命令が下った。
え、怒られるの?なんで?そんな物も壊してないし…。
もしかして前の事件の器物損壊の話だろうか…。まぁ、とにかく良い予感はしない。
早く帰る為に能力を使ってアポロンメディアへ向かった。
ヒーロースーツを脱いで急いでロイズさんの元へ向かうと、言われたのは。

「君、ヒーローアカデミーって知ってるかな?」

「はぁ、まぁ…俺、そこの学校通ってましたし…」

「ああ、そうだったね。なら都合がいい。今度その学校で君達ヒーローが未来のヒーローになりうる彼らに特別講師をしてもらう事になったんだ」

「はぁ…それって日時はいつなんですか?」

「明後日だ」

あれ、と思う。その日は確かバニーの学校の授業参観日じゃなかったけ。
ヤバイ、行く約束をしていたのに。行くって言っといて前日に仕事で行けなくなったとか仲良くなるどころがまた嫌われるんじゃないか?俺…。
ただでさえ娘の楓との約束もろくに果たせていないのに、バニーとの約束も破る事になったらもう俺本当どうしたら…。

「あの、それ…行かなきゃダメっすか?その日は生憎用事があって…」

「嫌なら辞めてもらってもいいんだよ?」

「すみません、やります、やりますよ!!」

「その日は生徒の親御さん達も来る予定だからね、くれぐれもヒーローらしい事をするんだぞ」

念を押された。俺が学校の物を壊すとでも思ってるんだろうか。酷いな!
俺だって自分の母校を壊すような真似するわけないだろ!
ふと時計を見ればバニーがもう帰ってきている時間だった。は、夕飯作ってない…!
バニーが腹を空かせて待っているかもしれない!急いで帰らなければ!

「そういえば鏑木くん、君は最近ダイナミック直帰をしているようだがそれは禁止しているはず…」

「あ、ロイズさんすいません!家に腹を空かせた兎が待ってるんで!じゃあ、お疲れ様っしたーッ!!」

「ちょ、…はぁ…彼の今月の給料は減らす事にしよう」

俺が今月の給料明細を見て絶望するとはこの時の俺は思いもしなかったのだった。

♂♀


急いで家に帰れば部屋の中から良い匂いが漂ってきた。
あれ、俺夕飯作ってなのに…。まさか泥棒!?さっきまで能力を使っていたら後一時間は使えないが、体術は心得ているからなんとかなるだろう!
そう思って勢いよくリビングに飛び出せばバニーが台所で何か作業をしていた。

「…あ、れ…バニー?」

「…ぉ、かえり…なさい」

「ぉ、おう…ただいま」

なんだか変な感じだった。最近まで独りだったから『おかえりなさい』なんて言って貰える相手がいる事に嬉しさを覚えた。
まぁ、挨拶はしろって教えたしな。っと、それより。

「お前、何してんだ?」

「いえ、お腹が空いたので…夕飯をと…」

「あっ、悪いな。急に仕事が入ったもんで、用意出来てなくてごめんな?」

「別に。平気です」

ツンは相変わらず、か。何を作っているんだろうと覗けば、俺が良く…というかいつも作るチャーハンだった。
驚いてバニーの顔を凝視すれば、顔が林檎のように真っ赤になっていた。

「い、いつも貴方がコレしか作らないので…ッ、」

「あー…そっか。覚えてくれたんだな。悪いな、俺…チャーハンしかまともな料理できなくて…」

「今度からは別の料理も作れるように覚えて下さい。そんなんじゃ食生活乱れますよ」

「じゃあバニーは何が好きなんだ?頑張って覚えるからさ、教えてくれよ」

俺がそう言えば、バニーは俯いたまま動かなくなってしまった。
あれ、俺悪い事聞いたかな…。ヤバイ、地雷踏んだかも…。
俺があたふたしていると、バニーはボソリと言った。

「…好きなものは、ありません」

「え?」

「親の料理なんて、もう…覚えてないんです。味も見た目も、全く思い出せないんです」

そうだよな。四歳でいきなり独りになって、親の料理なんてもう覚えてないよな。
両親も忙しくてあまり家に居なくてハウスメイドの料理ばかり食べていたと聞いている。
母親の手料理なんて、数える程度しか食べた事ないんだろう。

「…よし、じゃあ俺がお前の好物を見つけ出してやるよ」

「え…?」

「俺が沢山料理を覚えてお前に食べさせれば、その中でバニーが好きな料理が見つかるかもしれないだろ?ほら、俺もチャーハン以外の料理も覚えられるし、バニーちゃんの好物も見つかる。一石二鳥ってな!」

「貴方は…本当に…」

これなら親睦も深まるし、俺も料理を覚えられるし、バニーの好物も見つかるし。
ほら、良い事ばっかりだ。そうと決まれば俺は明日から料理の本を大量に買って来なくちゃいけなくなるな…。
いや待てよ?他のヒーロー仲間に教えてもらうっていう手もあるのか…。
だけど「お前が料理?馬鹿じゃねーの?」とか色々言われそうな気がする。
だがしかしこれは俺とバニーの為!そんな罵声の一つや二つ、なんでもないぜ!
…処で、なんでこんな焦げ臭いんだ?見ればフライパンから黒い煙がモクモクと…。

「あぁあーーッ!!バニーちゃん!チャーハン!チャーハンが焦げてる!焦げてるって!!」

「え?…うわぁッ!」

バニーが慌てて火を止めたが、俺達の夕飯は炭となってしまった。
俺もバニーも唖然として顔を見合わせて笑いあった。
結局夕飯は出前で頼んだピザになった。
それをモグモグと食べながら、ふと思った事をバニーに聞いてみた。

「ん、…そういやさ、バニーってどんな学校通ってんだ?今度授業参観あるじゃんか、俺もしかしたら行けな…――」

「ヒーローアカデミーですけど。マーベリックさんから聞いてないんですか?」

「へー…ヒーローアカデ、ぐごッ!?ぐぶっぶぶごほ、げっほ!!」

「ちょ、汚いですよ!噴き出さないで下さい!!」

ヒーローアカデミーだって?マジで?冗談抜きで?
という事はバニーはNEXT!?俺知らなかったけど!
というか聞かされてないけど!!

「え、え、!?お前、NEXTなのかよ!?」

「はい。能力は五分間だけ身体能力が百倍になるハンドレットパワーです。制御はもう有る程度できるようになりましたよ」

俺と同じかよ!!だから社長、コイツを俺に押し付けたのか…?
今なら会社の企みが分かる。
なんだか波乱の予感がするのは気のせいじゃないと思う。
明後日の授業参観と特別講師。ヒーロースーツを着ているから分からないとは思うけど。
感の良いバニーの事だから気付いて俺の事罵倒するかもしれない…。
それだけは!それだけは勘弁!折角仲良くなるチャンスを得たのに!
なんとか隠し通せるようにロイズさんと相談しないと!!

「おじさん…?大丈夫ですか?急にどうしたんです」

「わ、悪い…動悸息切れ吐き気眩暈が同時にして、な…」

「ふざけてるんですか」

いやふざけてないけど。至って真面目だよ俺は。
あああ、もう。これからどうなるんだよ俺の人生…!
授業参観に特別講師、なんとかコイツにバレないようにしなければ…!
俺は一人拳を高らかに上げ、決意した。



(何してるんですか)
(バニー、俺、頑張る!)
(は?まぁ…なんでもいいですが、頑張ってください)
(おう!!)

―――――
『俺とアイツと○○と!』の続編とリクを頂きました。
なんだかまた続きそうな予感…。
シリーズ物で続くかもしれない。


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