今日俺の家に遊びにおいで、と恋人である臨也に言われて行ったはいいものの。
部屋の中には恋人の姿はない。どこかに出かけてしまったのかもしれない。
携帯を開けば一件メールが届いていた。
『ごめんね、ちょっと仕事が入っちゃった。すぐ終わるから、部屋の中で寛いで待ってて』
もう部屋の中に入ってしまった…。こんな広い部屋で一人で待っていてもつまらないのだが。
するとまた携帯が震えた。メールのようだった。
どうせ退屈すぎて寝ないでよ、とか、物壊さないでよとか。そういう内容だろう。
見なくても分かる。と、静雄は開かずそのままポケットに携帯を突っ込んだ。
しかし、そのメールの内容が静雄の思っていたものとは大きく違う事に、彼は気付かない。
『あ、シズちゃん。言い忘れてたけど、部屋の中にはサイケとか、津軽とか…そういったアンドロイド達がいるから、挨拶しておいてね』
♂♀
なんだ、これは。静雄は動揺した。
部屋の中には恋人と同じ顔をしているのが男が二人、そして自分と同じ顔をしている男が二人。
これはどういう事だ。
「…あれ、もしかして…静雄くん?」
臨也の顔をしたピンクと白を基調とした男が話しかけてきた。
思わず反射的に、そうだと答えればその男はパァアと華を咲かせたように笑った。
臨也が本当に笑顔で笑うときはこんな感じなのだろうかと静雄は思った。
「初めまして!僕、サイケ!わぁ〜…本物の静雄くんだ!宜しくね!」
「え?お、おぅ…」
サイケと呼ばれた臨也にそっくりな男。これは一体なんなんだ、と聞こうとすれば。
今度は蒼と白を基調とした男に抱きつかれた。
同じ顔で同じ背丈の男に抱き締められるというのはなんとも不思議だ。
「はじめまして、しずお。おれ、津軽」
「津軽…?」
「そう。…しずお、会いたかった…」
うっとりと津軽はそう言うとさらに静雄を抱き締める力を込めた。
だがその力は尋常ではないぐらい強いもので静雄は思わず痛さに顔を歪めた。
人間ではない、と瞬時に理解した。離してくれ、と言っても津軽は嫌々と首を振るばかり。
どうしたものかと呆けていると、今度は背後から勢いよく抱きつかれた。
必死に首を回してみれば、また自分と同じ顔同じ背丈のサイケと同じくピンクと白を基調とした男。
「静雄ぉーー!会いたかったー!オレのオリジナル!愛してる!」
「はぁ?」
「デリック、津軽さんも…静雄さんが困っていますよ」
今度は前から聞こえてきた。そういえば、彼らは声も自分達と同じだという事に気付いた。
姿形はそのまま自分達と同じなのに、個人個人に性格があるようだった。
先程聞こえた声の方へ向けば、そこには顔は臨也のなのに、格好は王子様の男。
「初めまして、静雄さん。私は日々也。貴方の後にくっついてるのは、デリックと言います」
「あ…どうも…」
「すみません、突然で驚かれたでしょう?臨也から何か私達の事で連絡などありませんでしたか?」
「いや…あ、でもそういやさっきメールが…」
携帯を開いてメールを確認すれば、それらしき内容が書いてあった。あの時確認していればこんな動揺する事無かったのか…。
臨也の野郎、帰って来たらぶっ飛ばす。携帯がメリメリと悲鳴を上げている中、今度は。
「静雄くん、お菓子食べる?臨也くんが絶対食べるなって言ってたけど、別にいいよね」
「オレも食べるー!サイケ、くれ」
「デリック…言葉使いがなってませんよ。そういう時は下さいって言わないと」
「うるせーな。そんなグチグチ言うと嫌いになんぞ」
「えッ、あ、ご、ごめんなさいデリック!嫌いにならないで下さい!」
「はーい、津軽。あーん!」
「あーん…ん、美味しい。あ、しずおも、はい。美味しいよ」
「お、おう…」
なんだ、これ。何時の間にこの空間に溶け込んでるんだ俺。
ソファの上ではまるで家族のようにじゃれ合う四人。
そんな様子をずっと見ていれば、今度はまた別の処から声が聞こえた。
しかもそれはどうやらパソコンの中らしい。
そっと覗いてみれば、そこにはまた自分と恋人の姿をした男がいた。
『…あ、しずちゃんだ』
『え、えッ!ど、どこですか!?』
『ほら、目の前。こっち見てるよ』
『あ…ぅ、わぁあああ…シ、シズオ、さんっ、だ…ほ、本物…ッ』
画面の向こう側では自分と同じ顔をした男が、何を感動したのか号泣している。
そしてその彼を慰めている黒と赤を基調とする男。
なんなんだと思っていると、ズシリと誰かにのしかかられた。
見ると、クッキーをむしゃむしゃと食べているサイケだった。
「あの人達は、月くんと、ろっぴくん。臨也くんみたいなのがろっぴくんで、静雄くんにそっくりで泣き虫なのが月くんだよ」
『ああ…どうも、初めまして。八面六臂といいます。彼は月島静雄。ボク達は所謂パソコンソフトだから、ソッチ側には行けないけど、宜しくね、しずちゃん』
彼の笑った姿は、臨也そのままだと思った。
「…思ったんだけどよ、お前らなんで俺の事知ってるんだ?」
「だって、臨也くんから散々聞かされてたからね。俺のシズちゃんは可愛くて愛らしくて美人で性的で…とか。まぁ津軽もデリちゃんも、静雄くんがモデルだし」
「そう!オレは静雄が好きすぎて生まれたんだ!だから俺はこの先何があろうとも、オレは静雄を愛してる!」
「私達が静雄さんに会いたいって言っても、臨也は頑なに拒んでいましたから。でも…今回、会えてよかったです」
「うん。しずお、可愛い。好き」
悪い気はしなかった。寧ろ好意を寄せられていた事が嬉しかった。
だがそんな思いはつかの間。サイケの手がするりと服の中へ入り込んできた。
驚いて振り払えば、サイケはニヤリと悪い笑みを浮かべていた。
「ふぅーん…?静雄くん、随分可愛い反応するんだね。臨也くんと違う反応するから、面白いな」
「静雄、静雄、キスしていいか?いや、駄目って言われても無理矢理するけどな」
「しずお、ぎゅうってしていい?しずお、暖かい…」
「ちょ、皆さん勝手に…臨也に怒られますよ」
「臨也くんなんか怖くないもん」
『あ、しずちゃんが皆に遊ばれようとしてる。性的な意味で』
『えええーッ!?それ大変じゃないっすか!ちょ、シズオさんッ逃げて下さいーッ!!』
嫌じゃなかった。こうやって好意を寄せられ普通に話してくれて、怖がらないでくれて。
性的な事は勘弁だが、こういう事もたまにはいいかもしれないと静雄は思う。
彼らも彼らでそれぞれ個性がある。姿形は同じでも、個人の意志がある。
それはもうすでに一人のヒトなのだ。
「…仕方ねぇな…。少しだけ、遊んでやるよ」
嬉しそうにはしゃぐ面々。静雄もそれに頬笑みながら先程貰ったクッキーをかじった。
とりあえず臨也の野郎は帰って来やがったらぶん殴ろう。
君の事が大好きな僕ら
(ただいまー。って…え、なに!?部屋の中がめちゃくちゃなんだけど…!)
(あ、臨也。お前帰ったのか)
(あ、シズちゃん!皆と仲良くなったんだね!よか、…うわぁ!いきなり殴り掛らないでよ!)
(てめぇ!今までコイツらの事隠してたのかよ!俺がどれだけ驚いたと思ってんだ!)
(だからメール送ったでしょ!)
(静雄くんと臨也くん、痴話喧嘩は近所めーわくだよー)
(だよー)
―――――
実は一番最強なのはサイケという裏話。
匿名希望様、リクエストありがとうございました!
派生組は個性的で、皆纏めて書くと大変でした…。
そこに静雄を混ぜるとさらにゴチャゴチャになってしまい…拙い文章で申し訳ないです><
ありがとうございました!